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第38話 3人

――うう、重い。クソ……ッ()デデデデ!!」 腹の上に感じる重みを手探りで払い()けようとすると、今度は頬に硬い(こぶし)が食い込んできた。 「……ミヤビぃ!!いい加減にしてくんねぇか!」 琥珀(こはく)の部屋で朝を迎える。 元々撮影会用で使用していた広いベッドは、大人3人が寝るに耐えうる広さがあったはずなのに、不快な圧迫感で樫原(カシハラ)の寝覚めは最悪だった。 「ハァ、お前の寝相の悪さを忘れてた俺がバカだったぜ。つか、なんで隣に来てるんだ!」 樫原は眉間に(しわ)を寄せ、全く動じず眠り続けるミヤビの両肩を揺さぶった。 「ハッ!お前がこっち側にいるってことは……琥珀はどこいった!琥珀、琥珀ゥ!!」 確かに自分の隣で寝ていたはずの小さな姿が見当たらない。 樫原は慌てて掛け布団を取り払おうとするも、ベッドの中心で半回転したまま大の字で眠るミヤビの体が邪魔をする。 「ああ!豪快に寝てんじゃねェよ!ミヤビ!起きろ!!」 「う……。俺、ちゃんといます……」 薄い体は掛け布団に(まぎ)れ、ミヤビの足の下敷きになりながら弱々しく反応を見せた。 「琥珀!無事か?!ミヤビ!!ミヤビー!!」 「――ったく、信じらんねぇ。怪我人相手に何やってんだよ!」 「アッハハハハハ!すいません、オレにしてはまだ大人しく寝てた方っすよ。潰してごめんねぇ琥珀〜?!」 「もう平気です……」 「樫原さんだって、朝からあんなに叫ばなくったっていいでしょう?ホント、琥珀のことになるとすぐ頭に血が上るんだから♪」 「全く。末恐ろしい奴だ」 久しぶりに3人で囲うテーブルは、バラエティ豊かにパンや惣菜、琥珀の好きな甘いお菓子が所狭しと並んだ。 「コンビニ(めし)で悪いな、琥珀」 樫原はそう言うと、まだ少し緊張したままの琥珀の頭をポンポンと撫でた。 「……ううん、美味しいです。とても」 たまごサンドを頬張りながら、琥珀がふわりとはにかんだ。 店のデビュー以来、孤独な日々に寂しさを感じていた琥珀の顔に安堵の表情が浮かぶ。 一時は(ひたい)からの酷い出血と過呼吸で心底心配したが、思ったより顔色も良くなり、樫原は胸を撫で下ろした。 「よし食ったな。消毒して体拭いてやる。先に中が怪我してねぇか見てやるから、着てるモン全部脱ぎな」 「え……?」 「ホラ早く、身体検査だよ♪」 「あっ、わっ!うわあああ!」 あっという間にミヤビが琥珀のパジャマを脱がすと、後ろから華奢な体を抱きしめたままソファに腰を下ろした。 「よっこらせ♪うわ、軽ッ!」 「え……、ちょ!やっ!」 体勢を崩した琥珀はなされるがままに両脚をM字に割り開かれ、陰部が全て丸見えになった。 「うわあああ!や、見ないで下さいッ!」 「どしたの?オレも樫原さんも琥珀の体はもう全身隅々まで見てるんだから、今更隠すことないでしょ♪」 「ヒッ!やだ、そこ拡げないで」 「お利口にしてれば怖くないから!樫原さ〜ん、お願いします♪」 ミヤビの指が肛門の周りを押し広げ、ピンクの穴が無防備に口を広げた。 「琥珀、暴れるなよ。コレ()れるけどちっと我慢しろ」 「……ッ!……あ……」 ミヤビに拘束された体に力が入り、開かれた両脚がガクガクと震える。 樫原が琥珀の穴に挿し込んだのは、ローションに濡らしたガラス棒だった。 「うぅ……つ、冷たいです」 「琥珀、息止めちゃダメ」 「切れてはいねぇが、若干腫れてるな。痛ぇか?」 「い……たくはない……です。は、恥ずかしい」 しゃがんだ樫原が股間に顔を近づけるせいで、琥珀は思わず赤面した。 角度を変えながらクチュクチュと棒が動く度に吐息が漏れて、体がピクピクと跳ねてしまう。 「あ……あ……ふぅッ!んッ」 「琥珀〜、コッチは?痛む〜?」 ミヤビの指に背後から乳首を転がされ、我慢しきれず上擦った喘ぎ声が漏れる。 「アン!ダメ、あっ、あっ――!!」 その途端、琥珀の張り詰めた性器から白い精液がピュッと(あふ)れ出て、目の前の樫原にパタパタと降り掛かった。 「ッ!琥珀!」 「う……あ、ごめんなさいぃ」 「ふ、ハハ、キャハハハハッ!樫原さんが顔射された!!ウケるー♪つか、琥珀早すぎ」 「ミ〜ヤ〜ビ〜!」 樫原はティッシュで顔を(ぬぐ)うと、ミヤビの頭上にゲンコツを落とした。 「うわ〜ん!ヒドイ……」 「そのまましっかり琥珀の脚開いてろ!琥珀、触診してやる」 「へ……?あ、んああッ!!」 達した後すぐにまた敏感な穴へ、今度は樫原の硬い指が押し入れられる。 「痛いところはあるか?」 「ないッ、あうッ、ないですッ!!」 「逃げるな。メンテナンスだ。傷が付いてたら厄介だからな」 「もういいッ!もう……んああッ!」 細かく位置を変えながらグニグニと腸壁を刺激され、琥珀は背中を()け反らせて(もだ)えた。 「これなら大丈夫そうだな」 最後にクリームで保湿し、体の傷にも軽く消毒を行って、樫原は琥珀から手を離した。 「琥珀、終わったよ。おつかれ♪」 ようやく刺激から解放された華奢な体はくるりと向きを変えられ、ミヤビがぎゅっと抱きしめた。 「――ねぇ、琥珀。何があった?」 「……!」 (とろ)けてハアハアと息を漏らしていた琥珀の表情が、一瞬で固まった。 「教えて、オレたち怒らないから」 琥珀の額に巻かれた包帯の上から、ミヤビがそっとキスをした。 「お、俺……平気、ですよ?」 「琥珀。俺とも約束したよな?もう二度と1人で抱え込むなって」 「……!!」 樫原の真っ直ぐな低い声が、厳しくも優しく琥珀を包み込む。 「体を見りゃ分かる。客に乱暴されたな?何か言われたか?」 薄い肩がピクリと動き、琥珀は瞼をギュッと閉じて口を開いた。 「……俺は、男に()られるのが好きって……。最底辺の淫乱野郎って……言われました」 「……うわ、それひど」 「人権の無い……愚かな犬なんだっ……て」 「琥珀……」 心配そうに見つめるミヤビとは裏腹に、琥珀は複雑そうに笑った。 「でも俺、妙に納得しちゃって。なんかもうその通りだしって……。でも、やっぱり悔しかったのかな」 「……」 「もっと鳴けよって言われたのに意地張ってたら、ムカつくって殴り飛ばされちゃいました。それで鏡が割れて、ハハハ……」 「……」 「ハハ……うッ、うぅ」 気丈に振る舞っていたつもりが、気付くと涙がポロポロと溢れ出していた。 「琥珀。お前は客に手を上げなかった。それは立派だ。理解の無いやつには、どれだけでも言わせておけばいい」 「……っく、うう……ふぅッ……」 「堂々としてろ。隠れてメソメソ泣いてンじゃねぇ」 「でも、俺にはもうそんな資格は……」 「自分自身をもっと誇れ!お前の本質は、そんな奴に屈していいほど腐っちゃいねぇ!」 樫原の強い声に、琥珀の心臓が揺さぶられる。 自分を卑下し、何もかもを諦めて、いつの間にか失う必要のないものまで無くしかけていた。 「琥珀、すげぇ心配したよ。琥珀が傷付くのはオレたちも悲しい。怪我して閉じ籠るなんて、もう絶対すんな」 「ミヤビさん……ううっ、はい……はい――!」 一度負ってしまった心の傷は癒えなくとも、同じくらいの温もりを、琥珀は小さな体で一身に感じた。 「――って!!なんでまた3人一緒に寝るんだよ!しかも俺が真ん中!」 「だって、琥珀が真ん中でもオレが真ん中でも危ないでしょ!樫原さんが真ん中になるしかないじゃないっすか!」 「俺を盾にするな!!」 イライラした樫原の横で、満足気なミヤビが微笑みかける。 「一緒に寝るの楽しいよな?琥珀♪」 「は、はい!」 満更(まんざら)でもない様子の琥珀が、キラキラと瞳を輝かせた。 それを見た樫原は、琥珀が嬉しいならまあいいかと、自分に言い聞かせて気持ちを保つ。 「ああカワイー♪琥珀、おやすみのチューは?」 「チッ!くれぐれもこんなこと他の奴らには言うなよ!オイ!早く寝ろ!!」 樫原は今夜も、やれやれとため息をついた。

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