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第40話 日曜日

「し、失礼します!」 「こんばんは」 「……!」 「おかえり、本谷さん――」 待ちに待った日曜日。 前回は姿を隠して泣いていた琥珀が、今日は扉を開けてすぐの玄関スペースに笑顔で立っていた。 まだ控え目で少しぎこちなくも、嬉しそうに出迎えてくれている。 「名前、覚えててくれたんですね!」 「もちろん。来てくれてありがと」 「……!!」 思いがけない歓迎の言葉に、本谷の心が一瞬にして躍り出す。 「会いたかったです!!琥珀……!!」 「わっ、本谷さん?!」 愛しい気持ちが溢れ出し、痩せた体を優しく抱きしめた。 前回の来店から一週間しか経っていないというのに、随分我慢させられたような感覚しかない。 「ああ、琥珀だぁ。やっと会えた」 「もー!大袈裟だなぁ」 「すいません嬉しくてつい……あれ?」 「……?」 「ど、どどどどうしたんです?!そのおでこ?!」 「あ……やっぱりバレるよね」 サラサラした前髪の隙間から覗く白いガーゼに、本谷は動揺した。 「ちょっと切っちゃっただけ。もう平気だよ」 「け、怪我だなんて!綺麗な顔にもしものことがあったら大変だ!痛いですよね?!休んでていいですから!えっと……」 「ちょ、落ち着いてよ。大丈夫だってば。プッ……アハハッ!なんで本谷さんがそんなに焦るの」 取り乱す本谷を前に、琥珀の表情が(ゆる)んだ。 「それよりさ!前回何もできなかった分、今日はしっかりやらせてもらからね」 「……え?」 「早く脱いで?一緒にシャワー行こ」 「ど、どうしちゃったんです琥珀?!この一週間で一体何が?!私はまだ、心の準備がー!!」 ――白い肌が、ピタリと張り付く。 「これは……夢……ですか?私は召された……のかな?」 精一杯の正気を保つが、本谷の脳内はパニックだった。 「ねぇさっきから何言ってるの本谷さん?」 「ヒェッ!!あ、じゃなくて、こんなに密着して洗う……んだね?!い、いつもこうなんですか?」 「ん……教わって……今初めてやってみてるんだけど、気持ちくない?」 「き、気持ちいいですッ」 全身にたっぷりの泡を(まと)い、琥珀自らその体を本谷に擦り付けて洗っていく。 (今、初めてって言ったよね?他のお客さんが味わっていないことを、私が――!) 身長差でちょうど収まりの良い華奢な体の懸命さに、罪悪感と興奮とが同時に押し寄せる。 理想の肢体(したい)が目の前にあるのだが、ドキドキしすぎて直視できない。 (肌の感触がスベスベすぎてヤバイ!!ホントに男の子……だよな?!おかしくなりそう……) 「本谷さん……」 「ハイッ?!」 「お、おっきい……ね」 「……ッ!!」 琥珀のもどかしげな口調に慌てて自身を見下ろすと、性器がすでに(たかぶ)りを見せていた。 「ごごごごめんなさい!!こんな風に誰かに密着されるなんて初めてで……」 (しかも好きな子からッ!!!) 「え?本谷さん背も高いし、絶対モテそうだし、女の人が放っておかないでしょ?慣れてるのかと思ってた」 「なッ!慣れてません!!付き合ったことはなくは無いですけど、その、体の関係になったことが……実は……ないというか……ハハハ」 「……!」 (ダメだ!!28にもなって、童貞のカミングアウトッ!!ひ、引かれるッ!!) 「へー、そうなんだ。ん?……そうなんだ!!」 「ううっ、情けなくてすいません」 本谷は急に切なくなって遠い目をした。 「シャワーはもういいや!拭いて!次つぎッ!」 「……へ?!」 琥珀は何故か急にキラキラと目を輝かせ、本谷の腕を強く引っぱる。 裸のままベッドに横にされると、軽い体がふわりと重なった。 (わあああ、何これ!!どうしようぅ) 「あ、あの、なにを?!」 「ん……ハッ……」 琥珀は小さな舌で本谷の首筋をちろちろと舐めた。 「俺がんばるから!待ってて」 「琥珀?!」 柔らかい舌の感触は、時折りキスを交えながら、次第に下半身へと近付いていく。 「あ、待って……そんな所は!」 本谷の静止を待たず、琥珀はペロリと性器の先端を舐めた。 「……ッ!」 ピチャリと卑猥な音が鳴り、その昂りが躊躇なく口へと含まれる。 「あッ!待ッ!」 「んっ……ふッ……ん……ん……」 琥珀の積極的な行動に驚きながら、本谷の全身に快感が突き抜けた。 「琥珀!それは!やばい、です……ッ」 「んん……ん……はうッ……」 「琥珀!聞いてます?!琥珀!」 「ふッ、んッ……ん」 「ああああ、えいっ!!」 「ぷはッ!え!?うわああ!」 琥珀は突如両脇を抱えられ、子どものようにずるりと引き上げられる。 「こ、これ以上は、ダメ……!です」 本谷は首を横に振って、ヘナヘナと言葉を絞り出した。 「なッ?!あと少しだったのに!俺のご奉仕、ダメだった?気持ちくない?!」 「いや、良すぎてダメ……というか……その、身が持ちません」 「……」 本谷は琥珀を胸の上で抱き締めて、平常心を取り戻そうとした。 可愛い子に責められるのは、どうにも居た堪れない。 「俺、せっかく頑張ったのに……」 琥珀はまるで落ち込んだペットのように、シュンとしてしまった。 「ああッ!そうですよね、ごめんなさい!琥珀は悪くないんです……ん?」 「……」 「琥珀、もしかして勃ってます?」 「ッ!!」 ぴたりと重なった肌の、太腿(ふともも)あたりに伝わる硬い感触。 まさかと思い覗き込むと、琥珀は腕の中で恥ずかしそうに顔を伏せた。 「琥珀?耳が、真っ赤ですよ……?興奮してた?」 「ち、違う!!俺の体は、簡単に……こうなっちゃうの!!放っておいて!!」 「……嫌です。こっち向いて。見せて下さい」 「ちょッ!あ、やだッ」 細い体を優しく転がし、今度は本谷が琥珀を組み敷いた。 両腕をシーツに押さえると、何かを悟ったように大人しくなった。 白い肌に映えるピンク色の乳首と、張り詰めた小ぶりの性器がぷるりと顔を出す。 体毛の薄さと、未発達の骨格の儚さとが相まって、眺めるだけで背徳感が込み上げる。 改めて知るその発育途中の体の淫靡(いんび)さに、本谷は思わず釘付けになった。 「は、恥ずかしいよ……あんまり見ないで」 「琥珀、やっぱり可愛い」 「可愛いくない」 琥珀は不服そうに頬を染め、黄味がかった琥珀色の瞳を逸らした。 「可愛いです」 「男が可愛いって言われても……嬉しくない」 「キスしても、いいですか?」 「……ん、別に……いいよ」 素直に瞳を閉じたのを合図に、本谷は小さな唇にそっと口付けた。 「舌を入れても……いいですか?」 「か、確認されると逆に恥ずかしいんだってば!そ、その……えと……」 「ん?」 「全部、好きにしてよ」 その言葉に、本谷のリミッターが外れる。 優しくしたい。大事にしたい。 でもそれと同じくらい、自分のものにしたい。 「琥珀……!もっと可愛がりたい!」 「ん……はうッ」 小さな口腔内で、柔らかな舌を捕らえる。 薄い体はピクリと跳ねて、そのまま深く奥まで絡ませると、恥ずかしそうに大きく身動(みじろ)いだ。 「ああ、可愛いすぎますッ」 「あっ、ハァ……あう!」 キスしたまま片手で乳首を転がすと、すぐに硬く尖って甘い声が漏れた。 「ひあッ!アッ……んくッ」 敏感な反応の一つ一つが愛らしくて、ついつい何度も弱い部分に触れてしまう。 「本谷さん……俺、もう……苦しいよ」 琥珀は呼気を荒げ、性器からは先走りがタラタラと溢れ出していた。 「乳首ばっかり、も……や、やだ……」 「それは、こっちを触って欲しいってことですか?」 「んあ!あう……アンッ!」 伸ばした手で性器を包み込むと、琥珀は全身でビクビクと反応を見せた。 「琥珀……下はもっと敏感なんですね」 「あ……ああ……ひっ……あぅ」 「大丈夫、私に任せて」 「なに、これ……変……だよ」 味わったことのない快感に戸惑いつつも、琥珀は本谷を必死に求め続けた。 長い指はゆっくり、じっくりと、何故か気持ち良い部分を探し当てて刺激してくる。 優しくて、でもその優しさが逆に(じれ)ったい。 「琥珀が感じてくれて、嬉しい」 「あ……その、触り方……や……はぅ」 まるで全身を調べ尽くされるかのような錯覚に、知らなかった快楽の扉をこじ開けられる。 名前を呼ばれる度、まるで知らない自分を暴かれていくかのようだった。 「震えてる。どうしました?」 琥珀は脳が痺れて瞳が(とろ)け出し、普段なら絶対に言わないはずの言葉を抑えることができない。 「う……後ろが、疼いて辛い。さ、触って……お願い」 「……!」 ――お互いすでに達したというのに、プレイがもうやめられない。 「アッ、んああ……だめ……そこッ!また、気持ち()くなっちゃうよぉッ」 琥珀の小さな穴は慣らすごとに拡がって、すんなりと3本の指を受け入れた。 泣きながら悶えるその体はあまりにも淫らで、本谷は何度となく指だけで琥珀をイかせ続けていた。 「あ、また!イク!――ッ!!」 精液を出し尽くした痩せた体は、無射精のままガクガクと震えた。 「ウソ……。俺……か、(から)イキ……しちゃった」 琥珀は混乱し、涙を流す。 「大丈夫ですか?ついやりすぎました」 「は、初めてなんて……絶対嘘だ……!こんなにされると思ってなかった!ううぅ」 (ほぐ)れきった小さな穴は、艶やかに濡れたまま、まだ少しヒクヒクと痙攣(けいれん)していた――

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