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第46話 渇望
「――お前の実家周辺で、お前のことを嗅ぎ回ってやがる奴がいる」
「ッ?!」
「呼び出した理由はそれだ。オイ、誰が休んでいいっつった。集中してろよ」
「あッ……はぅ……んああッ!」
柚木 に組み敷かれた痩せた体が、硬いデスクに擦 れる。
両脚を開かれ無理矢理貫かれる度、琥珀 は強い刺激に意識を奪われそうになっていた。
「なんて言ったかなぁ。お前と一緒に住んでた……ああ思い出した。水嶋 だ」
「せ、先輩ッ!?あッ、あ、でるっ!!」
中学時代に加え、フリーターをしていた間にもお世話になった先輩の名を聞き、琥珀は取り乱した。
「コラ、勝手にイクんじゃねェよ。お前、これ誰に調教された?随分と後ろで感じやすくなったよなぁ」
「ふあ、やめッ、あううッ!!」
混乱の中、迫 り上がる快感を止めるように性器を握られ、琥珀は泣き声の混ざった喘ぎを漏らした。
「痛ェか……?安心しろ。お前の家族に接触された所でアリバイ工作は完璧だ。ここまで辿りつけるワケはねェ」
「う……うぅ……会わせ……て……」
「あ?」
朦朧とした様子で絞り出された声が、縋るように僅かに震える。
「一度、先輩に……会わせてくださ……い。そ……すれば、だいじょうぶ……に……」
「ハッ!ダメだ。どうせそのうち諦める。万一余計なマネをするようなら、脅してやるまでだ」
柚木はニヤリと嘲笑い、性器を握る手に力を込めた。
「うッ!痛ッ、はああッ!」
「お前は組 の犬だ。誰にも渡さねェ。分かったな!」
「うっ、ううぅ……、ううぅ」
「このくらいのお預けで泣いてんじゃねぇよ。返事は?」
「……は、はいっ」
「いいだろう。オラ、イけよ!!」
性器が一気に解放され、同時に最奥まで貫かれる。
「ふッ!あ、あ、ああああああ!」
途端に堰 き止めていた快感が溢れ出し、琥珀は呆気 なくその場に果ててしまった。
「オイ、終わりじゃねぇだろ?店で何を学んでる。俺がまだイッてねェだろうがよ」
「……?」
息を切らし、泣き疲れて蕩 けた琥珀色の瞳が柚木を見上げた。
「仕方ねェ、そのままイイ子で感じてろよ」
琥珀は更に両脚を大きく割り開かれ、その表情が思わず恐怖に変わった。
「や、抜いて!今は、もうやめ――!!」
拒絶を無視し、熱を吐き出した敏感な体に再度強烈な刺激がもたらされる。
「アッ!――ッ!!!」
琥珀は全身をビクつかせ、声にならない悲鳴を上げて激しく悶える。
「力を抜けよ。怪我するぞ」
「――ッ!!」
あまりの刺激にビクビクと痙攣し、逃げ出そうとするが四肢に力が入らない。
柚木はなんとか抵抗しようとする痩せた体を構わず揺さぶり、満足するまで嬲り尽くした。
「……落ちたか。まあいい。面倒くせェことになる前にまた手を打ってやる」
手慣れたように後片付けを済ませると、デスクに力無く倒れたままの華奢な体に上着を掛けた。
眠ってしまった琥珀の顎を持ち上げ、舐めるように顔を近づける。
「琥珀。お前は従順な犬だ。俺がこのまま、飼い殺してやる――」
――こんな顔で、本谷さんに会いたくない。
琥珀は楽しみにしていた予約の時間を前に、情けなくて憂鬱だった。
柚木に無理矢理抱かれた後は、いつも決まって心も体も痛みでどうにかなりそうだ。
「はああ……。腫れてる。なんか赤いし……」
なんとか身支度を整えたはいいものの、泣き腫らした瞼 は擦 りすぎてヒリヒリしていた。
「本谷さん、心配するかな……はぁ」
琥珀は大きく溜め息を吐 いた。
――コンコン。
「……ッ!」
「琥珀、お客様です。それではどうぞ、お楽しみくださいませ」
あっという間に時間は訪れ、琥珀は焦ってドアの前へ駆け寄った。
ガチャリと扉が開いて、2人の時間が始まりを告げる。
「わぁ!か、可愛い!!」
「うぶッ!」
もの凄い速さで抱きしめられて、琥珀の視界が奪われた。
「も、本谷さん?!ちょ、くるし……」
「なんですかこの服!!いつものサテンのパジャマじゃない!!」
「へ……?あ、そっか」
昨日、百貨店で買ってもらった服を早速着ていた琥珀に、本谷はいち早く飛びついた。
「琥珀が選んだんですか?可愛い!」
「……カッコイイ、でしょ!あと俺じゃないよ。選んでもらったの」
「そうなんですかー!」
上は襟付きの白い半袖ブラウス、下は7部丈の茶色いチェック柄のパンツを穿いていた。
上下ともレディースだと言う事は恥ずかしいので言えないが、想像以上に褒められて琥珀は戸惑った。
「選んだ人は、琥珀の魅力を良く分かっていますね!」
本谷は瞳をキラキラさせて、琥珀の新鮮な装いをウットリと眺めた。
「そ、そうかな……?まだ着慣れなくて。俺……ヘンじゃ、ない?」
「はい!サイズ感もピッタリです!特にそのズボン!琥珀の細い足首が出ていて、よく似合いますよ」
本谷に喜ばれ、琥珀は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「……アレ?琥珀!!」
「ん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ〜?何かあったんですか?その目」
「あ……」
服のことで意識が逸 れていたが、泣き腫らした顔をすぐさま指摘され、ギクリと固まる。
「ちょ、ちょっと目にゴミが入って擦っちゃっただけ。心配しないで」
「……」
気丈に振る舞う言葉を聞くと、本谷はおもむろにベッドに仰向けで横になり、琥珀を優しく手招いた。
「おいで。いつもみたいに、乗ってください」
「……ん」
琥珀は素直に本谷に抱きつくようにして体を重ねた。
本谷にきゅっと優しく抱きしめられて、安心感に心がじんわりとあたたまる。
「ハァァ。癒されます……」
本谷の口から、緩みきった声が漏れた。
大人しく腕の中に収まる琥珀を大事そうに撫でて、幸せそうに微笑む。
「ん……、なら良かった」
不思議だ――。
昨日、偶然催事場で見かけてしまったこの人は、確かに自分とはかけ離れた眩しい存在だった。
お客さんらしい沢山の女の人に囲まれていた。
誰からも親しまれて、誰にでも笑顔で……。
遠くに感じたその人が、今は自分のことだけを見ている。
琥珀は抱いてはいけない淡い想いを自らの中に感じ、形になる前に必死で押し殺した。
「ん……」
目の前の胸に顔を擦 り付け、本谷のシャツをギュっと握りしめる。
「そうだ琥珀……」
「なに……?」
「コースターは、上手く作れましたか?」
「――!!」
本谷の言葉に目を見開く。
思わず飛び起きて、慌てた拍子にベッドから転がり落ちそうになった。
「あっ、危ない琥珀!そんなに動揺しないでください」
琥珀は本谷に腕を引かれ、再び捕らわれてしまった。
「な、なんで?!気付いてたの?!俺ずっと顔隠して……」
「落ちついて。あんなに恥ずかしがってる子、他にいませんでしたもん。気になりますよそりゃ」
「へ……??ええっ?!」
本谷の顔を眺める琥珀の頬が、真っ赤に染まった。
琥珀は恥ずかしさのあまり、自分でも体温が上がっていくのが分かった。
「それに、私が琥珀に気付かないわけがないでしょう」
「……え」
「確信して、すぐにでも抱きしめたかったですよ!でもお連れ様もいたし、何より琥珀が必死そうだったので我慢しました。何か事情があるだろうし」
「……!!」
あの一瞬で、そこまで考えてくれたのか。
琥珀は恥ずかしさと同時に、驚きを隠せない。
「あのままあそこに居たら、多分私の方が危なかったです。ちょうど交代だったし、頭を冷やしに行きました」
困ったように笑う本谷を、琥珀は目を見開いて見ていた。
「琥珀、キスして」
「……?」
「我慢した、ご褒美をください」
優しい声で告げると、本谷は琥珀の頭を撫でた。
「あの時、本当に嬉しかった。偶然だとしても、琥珀が傍にいて、不思議な力にまた引き寄せてもらえたのかなって」
「本谷さん……」
「琥珀に会うだけで、私はどんな時でも幸せになれる。琥珀と過ごす時間が、何よりも嬉しいんです」
俺だって、嬉しい――。
琥珀は胸の中に浮かんだ熱をゆっくりと伝えるように、小さく口付けた。
そのまま自分からギュッと抱きつき、しばらく離れなかった。
「俺、勝手に諦めてた。俺なんかが店以外で本谷さんの目に映るなんて……絶対にダメだと……思っ……」
「琥珀……?」
会いたい人に堂々と会えないことは、とても寂しく、心が痛かった。
自分に関わって欲しくない。誰かを巻き込み、不幸になどしたくない。
「本谷さん……に、いつも会いたいのは……俺なの……に……」
小さな声は言葉に詰まりながら、次第に震えていった。
「琥珀、泣いてる?琥珀?」
「なんで俺は……こんな、犬で……俺……おれは……」
泣いてはいけないと思うほど、涙が溢れてもう止まらない。
自分が犬でさえなければ、この目の前の愛しい人に、素直な気持ちを伝えられるのに。
「もっと、ちゃんと……普通に出会いたかったよ……本谷さん……うわああああん」
感情が抑えきれず琥珀は嗚咽 した。
琥珀の思い詰めた様子に、本谷はただ心配そうに強く抱きしめた。
「私はどんな琥珀でも愛しています。自分を責めちゃダメだ」
「うぅぅ……あああ……」
細い肩が可哀想なほど震え、白い頬は痛々しいほど赤く熱を帯びた。
大粒の涙に、本谷のシャツも濡れていく。
泣き崩れる体を必死に宥 め、全てに絶望しようとする潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。
「約束します。私は、キミを諦めない――」
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