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第47話 契り

琥珀(こはく)の涙は何度も見てきた。 自信のない声。泳ぐ視線。 本心を隠す時、ギュッと手を握る仕草。 無意識でも、小さなSOSはその言動の端々から何度となく読み取れた。 時にそれは、痛々しいほどのサインとなって胸に深く突き刺さる。 「琥珀、キミのせいじゃない」 ベッドの上で座ったまま琥珀を抱きしめ、労るように何度も何度もキスをした。 「本谷(もとや)さん、ご、ごめん……。ごめんなさ……」 「大丈夫です。一人で思い詰めちゃいけない」 琥珀が自分のことを客として一線を引くように、自分もまた必要以上の関係に踏み込んではいけないと思ってきた。 詮索すれば、琥珀を精神的に追い詰めることになるかもしれない。 2人で過ごす時間だけは、辛い現実から遠ざけてやりたい。 だから聞けない。聞いてはならない……はずだった。今、この瞬間までは。 自分の中で勝手に打ち立てた誓いが、ついに限界を迎える。 この無力で小さな恋人に、不幸を強いる者の存在が許せない。 「琥珀の背負う物や、辛さを私は知りません。だけどこれだけは言わせてください」 「……」 「キミはいい子です。卑下(ひげ)する必要はない」 真剣に、語気を強めて告げた。 「琥珀が琥珀の身の上を(うれ)いるのなら、不幸から逃れられないのなら、私はその不幸さえも丸ごと愛します」 「ど……ゆう……こと……?」 琥珀は泣きながら、不思議そうに見つめた。 「琥珀が普通に出会いたかったと言ってくれて、私は嬉しいです。だけど……私は酷い男だ」 「え……?」 「琥珀にとって不幸でも、そんな不幸にさえも私は感謝してしまう」 「……?」 「だって、琥珀に出会えたんですから」 力強く琥珀を抱きしめた。 「本谷……さ……」 「私と出会ってくれてありがとう、琥珀」 額を合わせて、目の前の尊い存在にありったけの感謝を伝えた。琥珀の胸の奥の、絶望や不安をゆっくりと(ほど)きたい。 優しく優しく、大切に抱きしめていたい。 だってキミは私の宝物だから――。 「本谷さ……、あり……がと」 その思いに応えるように、琥珀は泣きながら腕の中で安らかに微笑んだ。 「……俺ね、ここに居るのも本当は全部自分のせいなんだ」 「え……?」 琥珀は泣き止み、ゆっくりと自分のことを語り始めた。 学校へ行けなかったこと、父親や先輩から性的虐待を受けたこと、無知なまま社会へ出て騙されたこと。 そして、行き場を失って捕らえられ、ヤクザに体を好きにされていること。 「情けないでしょ、俺。こんな話、信じてもらえないかもしれないけど」 「そんな、信じます」 「本谷さんが思うよりずっと……俺は……残念で、愚かで、……も……汚い……」 話しながら、琥珀の視界は再び涙で(にじ)んでいった。 「そう……俺は……きたな……」 「そんなことはありません!!」 顔を伏せ、気付くと叱るように叫んでいた。 「……本谷……さん?」 驚いた琥珀に不思議そうに顔を除き込まれ、思いの丈を打ち明ける。 「琥珀、私は君に初めて出会った時、宝物を見つけたと思ったんだ。それからずっと、君だけを見てる」 儚く美しい少年は脆く消えてしまいそうで、何度となく失う恐怖感を抱いた。 その気持ちは、今でもずっと続いている。 「君に降りかかる全ての厄災(やくさい)から、君を守りたい。君を、幸せにしたいんだ」 真っ直ぐに伝えると、琥珀はどうしたらいいか分からないようだった。 「そんな……こと……俺には」 「ずっとそばにいたい。愛しています、琥珀」 琥珀の心を覆っていた厚く重い壁。 壊せるものなら壊したい。 「……俺も好き、本谷さんが……大好き」 「――!!」 琥珀の口から辛そうに吐き出されたのは、自分と同じ感情だった。 「ごめん、ごめんね本谷さん。俺には自由すらないのに。本谷さんを好きでいる資格なんてないのに」 琥珀はポロポロと涙を流し謝り続けた。 その姿を見ていられずに、胸の奥で熱く(たぎ)った強い確信をぶつける。 「関係ない!琥珀、未来は明るいです!!」 力強く言い切った。迷いはもう無い。 すると、深く傷付いた琥珀色の瞳が少しずつ輝きを取り戻していった。 「ほんと……?ほんとうに……?」 「いつかここを出て、一緒に生きていくんです。大丈夫、琥珀はきっと幸せになれますから」 美しくて他人思いの優しいこの子が、辛い人生を歩むなどあってはならない。 「私も考えます。私がキミの傍にいたいから」 「うう……本谷さん、俺も……、ずっと一緒にいたいよ。うわあああん」 その言葉を聞き、心の底から安心した。 子どものように泣きじゃくる琥珀に微笑みを返し、そのまま強く抱き合って、何度も何度もキスをした。 「本谷さん……」 「ん?どうしました?」 キスが深くなってしばらくすると、琥珀が一生懸命に何かを伝えようとする。 「あ、あの……う、えと……」 「琥珀?何でも言って?」 「……さ、触って。お願い」 (こぼ)れた言葉に驚いた。 「今日はもう無理しちゃダメです。元々泣き腫らした顔してましたし……疲れてたんでしょう?」 「……でも、して欲しい。キスだけじゃ……やだよ」 琥珀は恥ずかしそうに両脚を擦り付けて顔を赤らめた。 「あ……」 あんなに泣いていたのに、快楽に素直な体はキスだけで性器を膨らませている。 「分かりました」 強請(ねだ)られ致し方なく、琥珀を優しくベッドに仰向けで寝かせた。 ゆっくりと、少しずつ体を愛撫する。 「ん……あ……」 指が琥珀の敏感な穴に触れると、(たま)らず薄い腰が跳ねた。 「指……ここ、挿れて……?」 「あ、ちょっ……」 琥珀の方から白く細い両脚を開き、触れていた指を掴んで後ろの穴へ押し当てた。 「琥珀、誘惑が過ぎます。赤くなってるみたいですよ。やっぱり酷いことされたんじゃ」 「平気だよ、挿れて」 なぜか自分に触られることは元々好きな琥珀だが、いつになく欲しがる様子に自分もつい興奮してしまう。 「あッ、あうっ……はぅ」 「中も……やっぱり腫れてる気がします。指、痛くないですか?」 「あ……き、キモチ……イ……よ」 明らかに普段より敏感な様子に、ゴクリと唾を飲む。 「はう……アッ……あう……んあっ」 指の感触を味わうように、琥珀はただひたすらヨガっていた。 前と後ろを同時に(いじ)ると、気持ち善いのか一段と甘い声が漏れる。 「あ、ふああっ」 「琥珀、負担になるから今日はこのへんで終わりに……、ッ?!」 衝撃に、表情が固まる。 「琥珀!なにしてるんですか?!」 「ん。こっちがいい。も……これ、挿れて?」 あろうことか服の上から琥珀に股間を掴まれ、一気に体温が上がっていく。 「ダメですダメです!!いや、嫌なわけじゃなくて……心の準備が!!!あれ?」 「むー……!」 頬を膨らませた琥珀が、上目遣いで(にら)んでいた。 「本谷さんだから俺、初めてこういう誘いしたのに。ヒドイよ」 恥ずかしいとすぐに涙目になってしまう琥珀の反応が可愛い。 「ごめんごめん!で、でも男同士のセックスは受け入れる方にすごく負担がかかるみたいですし。だ、大事に……したいんです。キミのこと」 気を遣ったつもりだったが、琥珀は納得できないようでギュッと唇を噛んでいた。 「(うず)くから……もう辛いよ。だから……して……ください。もう泣かないから今してくれないと……、嫌です」 「そんな!断れないじゃないですか」 珍しく敬語で改まった琥珀の懇願に、ついに腹を(くく)るしかなかった。 「――痛かったら言ってください。研究はしたけど実践は初めてです」 「い……から、も……きて……」 「挿れますよ」 「うん…………あッ……!」 よく解された穴は、小さいけれど柔らかかった。 入り口を抜けるのに琥珀の顔が少し歪んだが、されるがままに大人しく受け入れている。 「あ……ああ……んんっ」 「クッ……なんとか、入った。けど……やっぱり……狭っ」 「あ、あうッ……おっき……いッ」 琥珀は待ちわびたように、全身でその痛みを味わった。 「本谷さ……俺、きもち……い……よ……?ありがと……?」 「あ……琥珀、そんなこと言わないでッ」 あまりの可愛いさに、本谷は理性を保つのに精一杯だった。 挿れただけなのに、もうすでにイッてしまいそうになる。 「う、動きますよ」 「うん……いい……よ」 「んッ」 「あ、あ、深……いッ……あううっ!」 「これは……やばい……クッ……」 動けば動くほど琥珀が締め付けるので、本谷は息を切らして刺激に耐えた。 「琥珀!ダメです、緩めてください!」 「や、やだ。もっと……もっと突いて?もっと……いっぱい、しよ?」 「ッ!そんな言い方されたら」 「アンッ!ああ……んあッ!ひあっ!」 (たま)らず琥珀の弱い所を集中して責めると、喘ぎ声が大きくなった。 本谷は興奮を押し殺し、華奢な体を貫く背徳感と闘いながら、自分のモノを(くわ)え込む琥珀を目に焼き付けた。 「琥珀、なんでこんなに可愛いんだ」 潤んだ琥珀色の瞳、吸い付くような白い肌。幼い体から漏れる、快楽で艶を増す細い声。 硬く尖ったままの乳首も、はち切れそうに(たかぶ)った性器も、自分を受け入れる濡れた穴も、全てがピンク色に火照(ほて)って可愛らしい。 「あ……離さ……ないッ……で?」 それから敏感過ぎて今にもまた泣きそうなのに、懸命に腕を伸ばして必死に抱きつこうとする健気さが愛おしくて仕方がない。 「琥珀、琥珀ッ!」 「本谷さ……も……ダメ……俺イク……イッちゃうう!!ん、ああッ!!」 「……ッ!」 最後は(しぼ)り取られるように、琥珀と同時に本谷も達した。 「ハァ……ハァ……、本谷さ……ありがと。せっかく繋げてくれたのに……、我慢できなくて……ご……めん……ね?」 「――ッ」 しばらく放心状態で、(とろ)けた琥珀の表情をひたすらに眺めていた――

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