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第3話
「あーっ、見つけましたよ!フロイド、サン!」
突然、フロイドたちの近くの草木ががさがさと揺れると薄い紫色の髪に少女のような可愛い顔をした少年が現れました。
「あれ? グッピーちゃん?」
「エペルくんだけではないよ」
そう声がするとエペルの背後からにこにこ笑顔のルークも現れました。
「ウミネコくんまで。ふたりしてどうしたの?」
「もちろん、キミを連れ戻しに来たのさ」
片手を胸にもう片方の手を広げて大げさなゼスチャーをするルークに、見慣れているフロイドとエペルは流しましたがジェイドだけは呆気にとられていました。
「オレ、帰る気ねぇから。ベタちゃんママにはそう言っといてよ」
「おやそれは。理由を聞かせてもらってもいいかい?」
やや不機嫌な顔になったフロイドが腕の中にいるジェイドをちらりと見てからルークの質問に答えました。
「ワケはおしえなーい。おまえらに言うひつよーねぇし」
フロイドの発言に「おやおや」と面白そうに笑うジェイドと「オーララ」と楽しそうな笑顔になるルーク。それと対照的にエペルだけが肩を震わせました。
「そんな勝手許すわけない、です!」
「はあ?別にグッピーちゃんに許してもらうひつよーなくね?」
「僕じゃない!ヴィル、サンです!」
両手をグーに握りしめフロイドとの身長差もモノともせず食ってかかるエペル。
「だぁからぁ、帰らねぇってベタちゃんママには言っとけって言ってんじゃん」
そんなエペルを見下ろして圧をかけるフロイド。
「そんな…理由も言えないようなワガママ、ヴィルサンに言えるわけない。そんな事言ったら僕が叱られる」
「は、しらねぇ~」
ピリピリとした空気がふたりの間に流れました。その間に割って入ったのはジェイドでした。
「フロイド。そちらの方もお困りのようですし、1度帰られてみては?」
ジェイドの言葉にびっくりしたフロイドはジェイドを正面から見つめ盛大に拗ねました。
「え~っ!?ジェイドはオレよりグッピーちゃんの味方すんのぉ?」
「いいえ。僕はフロイドの味方です」
「じゃあなんでそんな事いうんだよぉ」
「こういう事はちゃんと筋を通しておいた方がよろしいのですよ、フロイド」
諭すように話すジェイドにむう、とフロイドはむくれてしまいます。そしてじとりとルークを見ました。
「……ウミネコくん、ベタちゃんママは?」
「それはもう大層なお怒りだったよ」
ルークはやれやれといったように首を横にふりました。フロイドは大きなため息を吐きます。
「はあ~。じゃあダメだ。オレ、戻んねぇ」
「おや、どうしてです?」
「ベタちゃんママ、怒らすとなげーんだよ。戻ったらとうぶん城から出らんねぇもん」
「…それはそれは」
「オレぇ、ジェイドと離れんのやだし、会えなくなんのもやだ~」
びえんと泣き顔になって訴えるフロイドに「…ふむ」と考えジェイドは決断しました。
「そういう事であれば話は別です。僕もまたフロイドと離されたくはありませんし」
「…ジェイド?」
「戻らなくても構いませんよ」
「ホント~?ジェイドぉ」
「ええ。徹底抗戦といきましょう、フロイド」
先程までの人のよい顔はどこへやら、にやりと悪人ヅラで笑うジェイドに、フロイドも同じ顔で笑いました。
「あはぁ♡ジェイドが一緒にやってくれんなら楽勝じゃねぇ?」
両手を組んで指をバキバキと鳴らすフロイドに、怯む様子もなく対峙するエペルとルーク。
「…端から簡単にいくとは思ってねぇ。けど、絶対連れて帰りますよ!フロイド、サン!」
「サポートするよ、エペルくん。思いきりやりたまえ」
「はいっ!ルークサン」
マジカルペンを構えいつでも攻撃できる体勢に入るエペル。その後ろで隙のない構えを見せるルーク。そんなふたりをフロイドとジェイドは鼻で笑いました。
「おやおや。僕たちに敵うとでも思っているのでしょうか」
「ばかだよねえ♡ やっちゃおうぜぇ、ジェイドぉ」
「楽しみましょうね、フロイド」
エペルたち同様マジカルペンを構えるふたり。一触即発の場面で先にユニーク魔法の詠唱をしたのはエペルでした。
「、、目を閉じて、息を止めて………スリープ・キス!」
「何をしているんだ!おまえらはっ」
と、魔法が放たれるのと同時に制止の声が入りました。
「おや、アズール」
「え? 、チッ、バインド・ザ・ハート!!」
バチッ、という音と共に魔法を弾いたフロイド、でしたが…。
「え?」
「あ、」
「あ、」
「あ、」
弾かれた魔法はジェイドに当たりました。
「ジェイドーーっ、っ、」
ガクン、と崩れるジェイドをフロイドが抱き止めました。アズールも駆け寄りジェイドの名を呼びますが反応がありません。
「…ジェイド、死んじゃったの?」
「勝手に殺さないでください。…息はあります」
情けない顔で心配するフロイドをよそにジェイドの様子を見るアズール。
後から駆けつけてきたリドルたちが侵入者たちとの間に割って入りました。
「このふたりに攻撃するなんて、いい度胸がおありだね」
「友達に手を出すなんて許せないぜっ」
「…ただの昔馴染みだ。だがこのまま帰すわけにはいかないな」
怒りを顕にするリドルたちにルークは感動の声をあげました。
「トレビアン!そうか、キミたちはフロイドくんの家族なんだね」
「……は?」
面食らうリドルたちの後ろでフロイドとアズールも同じ顔でルークを見ます。
「数年前、崖から落ちて気を失っていたフロイドくんを私が城まで運んだんだ」
「ええっっ、」と驚く面々。
フロイドの目が鋭いモノにかわりました。
「…なにそれ?きーてねえんだけど?ウミネコくん」
「キミはあの時、怪我のせいで数日高熱が続いていたからね。目が覚めた時のキミは自分の名前以外覚えていなかったんだよ」
悲しげに首を振るルークに今度はアズールが訊ねました。
「では、記憶を失ったフロイドをあなた方が保護していたという事ですか?」
「そうなるね」
「記憶を戻す為の魔法は?」
「試したが、頭痛を訴えるのでやめた」
「フロイドの身内が心配してると思わなかったんですか?」
「思ったさ。だから探したし、この辺りにも来たハズなんだが見つけられなかった」
「…ああ。認識阻害魔法…」
黙ってしまったアズールに代わって次はリドルが質問しました。
「ではどうやってここが分かったんですか?今だって魔法はかかっているはずですが」
「それはね、私のユニーク魔法をフロイドくんにかけたからさ」
ぱちん、とウィンクをして見せるルークにぱちくり、と目を瞬かせるリドル。「あーっ」と声をあげたのはフロイドでした。
「ウミネコくんのユニ魔って『果てまで届く弓矢』…」
「そう、それだよ」
「いつかけたんだよ。オレ知らねぇし」
「キミが城壁を乗り越えた時だよ。すぐに追う事になると思ってね。かけておいたのさ」
呆気にとられ「…どうりで来んのがはえ~と思った」とぶつぶつ言うフロイドにルークは微笑ましいという顔を向けました。そして続けます。
「さてでは私たちはお暇しようか、エペルくん」 「え?でも。ヴィルサンが連れて帰れって…」
そう言って留まろうとするエペルに、ルークは安心させるように笑いました。
「それは大丈夫。ヴィルもフロイドくんの家族が見つかったと知ればきっと喜ぶに違いないよ」
「……そう、ですよね」
「ああ、きっとそうさ。ただ、ムシュー愉快犯に会えなくなるのは寂しいと思うかもしれないがね」
ほんの少し寂しげな顔をするルークにエペルはちらりとフロイドの方を見ると同じような顔をルークにしました。
「……はい」
「さっ、行こうか」
エペルを促しその場を離れようとするルークを、フロイドが引き止めます。
「ちょっとウミネコくん。なぁに帰ろーとしてんの?帰る前にグッピーちゃんにはジェイドにかけた魔法を解いてってほしーんだけど」
目を閉じたままのジェイドを抱きしめてフロイドが不満気に言います。
「ああ、それなら時間がた……モガッ」
フロイドに魔法の解き方を伝えようとしたエペルの口がルークにふさがれました。
「ムシュー愉快犯。物語のお姫様を目覚めさせるのは王子様の役目だろう?」
それだけを言い残しルークはエペルと共に(エペルを抱え)その場を去りました。
「…モガッ!、ちょ、ルークサン、何するんですか!あんなワケの分からない事言うし。ちゃんと時間が経てば目覚めるって伝えないと」
ルークの拘束から逃れ文句を捲し立てるエペル。
そんなエペルにルークは諭すように言いました。
「ノンノン。いいんだよ、エペルくん。物語は劇的な終わりを迎えなくてはいけないんだ。それもハッピーエンドと言う形でね」
「…は? いえでも、フロイド、サンが何をしたって目覚めたりしないのに…」
尚も納得いかないといった風のエペルにルークは悪戯っぽい笑顔を向けました。
「大丈夫。彼はもう目覚めていたからね」
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