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第2話
「ここがジェイドの家~?結構ちっさいね~」
「ふふふ。長身の僕たちからしたらそうかもしれませんね」
きゃっきゃっとはしゃぐフロイドとジェイドを無事に森の奥にある小人の家またの名を『ニネンセイグミ』の家に連れて帰って来たラギーたち。
着いた途端、電池切れをおこしたように眠るシルバーを支えたラギーは「オレは途中合流で詳しい事は知らないっス。あとは本人たちに聞いてほしいっス」とシルバーを引きずってさっさと家の中に引っ込んでしまいました。もちろんアズールへの報酬要求も忘れないで。
「…さて、どうしたものでしょうね」
「本当にフロイドは、ボクたちの事を覚えていないのかい?」
眼鏡をかけた銀髪の少年がフロイドとジェイドを見て「…ふむ」と考えこむと、この中で一番小さい赤毛の少年が皆の疑問を口にしました。
「ええ。先程少し話してみましたが僕の事も覚えていないようでした。リドルさんもお話されてみては?」
「いや、結構だよ。しかしアズール、キミの事も覚えていないと言うのならフロイドは記憶喪失という事だろうか」
アズールとリドルがフロイドの様子を分析していると、銀色の短髪にターバンを巻いた褐色の肌の少年が陽気に割って入ってきました。
「ラギーも言ってたし、本人に聞いた方が早いんじゃないか? おーい、フロイド~。お前きお、、モガッ」
「バカっ、やめろっ!カリム!!」
慌ててカリムの口をふさいだのは、黒色の長髪にカリムと同じく褐色の肌をした少年でした。
「何すんだよ、ジャミル」
「面倒事…いや、本人たちの問題に首を突っ込むんじゃない」
人のいいカリムが何にでも首を突っ込んでいくので、面倒事を嫌うジャミルは常にカリムのストッパー役でした。今回もそうなりそうで慌てて止めたジャミル。
「フロイドに聞いたところで、本人に記憶喪失の自覚はないでしょうけどね」
「となるとやはり、フロイドがいなくなった日に何があったのかだね」
カリムとジャミルのやり取りはいつもの事だったのでそのままにして話を進めていくアズールとリドル。
自分たちから少し離れた所で笑い合うフロイドとジェイドに以前のふたりの姿を重ねてアズールは目を細めました。
「…フロイドがいなくなったのは、数年前でしたね」
その日、フロイドは帰って来ませんでした。 たまたま別行動だったジェイドは悔やみ、皆の言うとおり一晩待っても帰って来なかったフロイドをその日からずっと森の中をさまよい探し続けました。
それでも見つからなかったフロイド。日に日に憔悴していくジェイド。
見兼ねたアズールがジェイドに忘却魔法をかけたのを皆は仕方ない事だと思いました。
「正直、ボクはもうフロイドは帰って来ないと思っていたよ」
アズールと同じようにふたりを見ていたリドルがぽつりと言いました。
「おや、そうなんですか?案外薄情ですね、リドルさん。僕は帰ってくると信じてましたよ」
「な、仕方ないだろう?あの頃どんなに大変だったかキミはお忘れかい?」
「俺も帰って来ないと思ってた」
「ジャミルさんまで。何て友達がいのない方々でしょう」
「友達とは思ってないからな」
「オレはフロイドは必ず帰ってくるって信じてたぜ」
「さすがカリムさんです。あなただけは信じてると僕は思っていましたよ」
各々の見解が出ましたが、最後のアズールの芝居がかった話しぶりにリドルは眉間にシワを寄せました。
「…ああそうかい。それよりジェイドの方はどうなんだい?」
皆の視線が一斉にジェイドに向けられます。
それに気づいたジェイドがにっこりと微笑み返しました。
「……あの顔を見ると、記憶が戻っているように見えますね」
「……ボクもそう思うよ」
「そうなのか?じゃあ良かったじゃないか。フロイドも戻ってきたし、ジェイドの記憶も戻ったし」
「…いや、どうだろうな。ラギーの話ではフロイドを知ってる自分をジェイドは疑問に思ったらしい」
「僕にも言ってました。『皆さんがフロイドを知っているのは何故でしょう?』と」
「じゃあまだジェイドの記憶は戻っていないんじゃないか」
「それはそうでしょう。この僕が作った魔法薬ですよ。そんな簡単に解けるわけがありません」
「…威張るなよ。ならさっさと解いてやればいいだろう」
「はぁ。それが出来てるならしていますよ。解除薬はあるんです。ただ今のジェイドには近づけないだけで…」
皆の視線が今度はフロイドに向けられました。
それに気づいたフロイドが威嚇するように睨み付けてきます。
「ははっ。猛獣みたいだな」
「まあ、あながち間違ってはいませんよ。獰猛なウツボですからね」
「そんな事言ってる場合じゃないだろう。早くふたりの記憶を戻してやらないと」
「…別にいいんじゃないか。あのふたりはあれで困っているようには見えないし記憶がなくても」
「記憶がないのはダメだろ、ジャミル。オレ、フロイドにはオレたちの事、思い出してほしいぜ」
「…そうだね。ボクもそう思うよ」
「おや?いいんですか、リドルさん。そうなると以前のようにまたフロイドにからかわれるかもしれませんよ?」
「バカにおしでないよ、アズール。ボクだってあれから成長したんだ。もう絶対あんな事はさせない」
「おやおや、これは失礼いたしました」
「そう言うアズールこそ、フロイドから忘れられて寂しいのではないのかい?」
「ああそう言えば。フロイドに『しらねぇ』って言われて傷ついた顔していたな」
「な、そんな事ありませんし、そんな顔していません!」
「分かるぜ、アズール。親友から忘れられたらさみしいよな」
「……カリムさんまで。もういいですよ。そう言う事にしておきます」
わいのわいのと話し合いをしているアズールたちをジェイドは微笑ましいという顔で見ていました。それを拗ねた様子で見るフロイド。
「……」
「おや?どうしました、フロイド?」
フロイドの視線に気づいたジェイドがたずねました。
「…ジェイドはオレといるより、あいつらの方が気になんの?」
「そうですねぇ。彼らとはずっと一緒にいましたし、気にならない事もないです。でも今はフロイドといる方が楽しいですよ」
ジェイドが優しくフロイドの頭を撫でてあげるとフロイドはその手を取って自分の頬にあてすり寄りました。
「オレもジェイドといると楽しいし安心する~。ずっと一緒にいたいなぁ」
「いればいいじゃないですか」
「いていいの?」
「勿論です」
「あは、やった~」
ジェイドから離れてフロイドはドレスをふわりと揺らしてくるりとターンしました。
「オレねぇ、お姫様だったの。おうちはお城~」
「え…」
驚いた顔をするジェイドに「あは」と笑い、くるくるとダンスするようにジェイドのまわりを踊るフロイド。
「お上手ですね、ダンス」
「そお?ベタちゃんママがうるさかったからねぇ。あ、ベタちゃんママって言うのはぁ、女王さまの事だよ~」
「そう、でしょうね」
眉尻を下げ困った顔をするジェイドにフロイドがぎゅう、と抱きつきました。
「でね。さっきの躍りはぁ、オレアレンジの求愛のダンス~」
「…………は?」
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