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最終話

(……ふふ。困りました)    ルークたちがいなくなった後、皆がわいわいと話し合いを始めた中フロイドに抱きしめられながらそう思ったのはジェイドでした。 (……すっかりタイミングを逃しましたね)    目覚めた時にそこがフロイドの腕の中だと気づいてついついフロイドを堪能してしまったジェイド。今更『もう魔法は解けています』とは言えず、未だにフロイドの腕の中でネタフリをしていました。 (…魔法を解く時に目覚めたフリをすればいいですね)    なんて楽観的に状況任せにして。 「ボクは物語にあまり詳しくないんだが、お姫様を目覚めさせる王子様の役目とは具体的に何をするんだい?」 (…定番で言えば “キス” でしょうね) 「そこは定番ですから “キス” でしょう」 (…おや、アズールと同意見になってしまいましたw) 「え、キス……?」 (…ふふ、顔を赤くして。リドルさんはウブな方ですね) 「じゃあオレがジェイドにキスすればいいのか?」 (…え!?) 「お前じゃない!お前は黙ってろ、カリム」 (…ほ。良かった) 「…オレのジェイドに、ナニするってえ?」 (……フロイド) 「落ちつきなさい、フロイド。おまえ以外にコイツにしたがるヤツなんていませんから」 (…ひどいですねぇ、アズール。あんまりです。しくしく) 「…はあ?気安く “コイツ” とか呼ぶんじゃねぇよ」 (…フロイドがアズールにやきもち?!) 「……はいはい、分かりましたから。さっさとやってしまいなさい」 (……やるって、) 「アンタにメイレイされたくねぇんだけど」 (………フロイドが?) 「…めんどくさいですね。するんですか?しないんですか?」 (…………僕に?) 「する!!」 (…ええっっ???) 『後でどうなったか教えてくれればいいから』  と、言ってリドルたちは家に戻りました。 『…僕は見届けます』  と、アズールはフロイドとジェイドがいる場所から少し離れた所へ行き見守っています。  とりあえずふたりになったフロイドとジェイド。 「………ジェイド」    フロイドは優しくジェイドの名前を呼びました。 それからそっと彼の頬に手を添え…、額に、ちゅ。  ジェイドの頬がほんのり色づいていきます。フロイドは小さく笑って今度はちゃんと唇に、ちゅっ、とキスしました。    ちゅ、ちゅ…、ちゅ~~~~~~~~~っ 「ながい!!」 「いてっ」    見かねたアズールに頭をはたかれジェイドから唇を離すフロイド。 「もう~。アズール、頭たたくのやめてよねぇ」 「おまえがいつまでもしてるからだろ。見ろ。ジェイドが酸欠になってるじゃないか」    フロイドが頭をさすりながら下を向くとジェイドが顔を真っ赤にしてはぁ…、はぁ…、と苦しそうに息をしていました。 「あは。ごめんねぇ、ジェイド。やりすぎちゃった♡」  にっぱり笑うフロイドにぶわっとまた更に赤面するジェイド。それをアズールはじっと見ていました。 「……フロイド」 「なあに?アズール」  フロイドが笑顔で返すとアズールの目頭にじわりと涙が浮かびました。がばっ、とふたりに抱きつくアズール。 「おまえ、記憶が戻ったんですね」 「え、あ~、うん。もどった、みたい?」 「……良かった。…………………………おまえも戻っていますね?ジェイド」 「……おや、バレましたか」  赤面しながらもアズールにはにやりと笑うジェイドに「あたりまえだろ」と言ってもう一度アズールはふたりをぎゅうっと抱きしめました。 「…まったく。おまえたちときたら、キスで記憶が戻るなんて物語のお姫様より安直ですよ」  感動の嵐から戻ってきたアズールが照れ隠しに眼鏡のブリッジをあげました。 「せっかく作っておいた解除薬もムダになってしまいましたし」 「また何かに使えるかもしれませんよ」 「おまえの為に作ったから他に使いようがないんですよ」 「おや。僕だけの為のモノでしたか」 「え? は、、違う! 違うからなっ」 「ふふふ」 「ふたりのやりとり。なつかし~」    以前に戻ったように会話を楽しんでいた3人でしたが、ジェイドがからかいすぎた為「もういいっ」と言ってアズールはやめてしまいました。  「他の方々への報告に行きます。おまえたちは暫く好きにしていなさい」 「はい」 「は~い」  仲良く返事をするふたりにひとつ笑みを残してアズールは行ってしまいました。   「…ねえ、ジェイド」 「なんでしょう、フロイド」  ふたりきりになったフロイドが甘えたような声を出してジェイドの手を取ります。 「オレねぇ。しってんの」 「…何をでしょう?」  フロイドの甘えに慣れていたはずのジェイドでしたが数年前と違って可愛さが増したフロイドに胸がとくり、と鳴りました。 「グッピーちゃんの魔法、オレがちゅーする前に解けてたでしょ?」 「…………え?」   手のひらが合わさり、指が絡められ、きゅっと握られたジェイドの手。そこからフロイドの熱が伝わってきます。 「それからぁ、森で会った時」    もう片方の手が顔の横に伸び、1房だけ長いメッシュに触れました。 「あの時にはもう、ジェイド、オレの事に気づいてたよねぇ」    フロイドの顔が近づき、囚われたメッシュが口づけられ…。 「………………………………え?」 「あは♡つかまえたぁ」  お互いの指が絡まり握られた手をぐいっと引っ張られ、くるりと仰向けにされたジェイドにフロイドが覆い被さりました。 「………え?」    そのまま首筋に顔をうめるフロイド。すーっとジェイドの匂いを吸い込むと甘い吐息をつきました。 「…………オレぇ。ずっとこうしたかったんだよねぇ♡」 「………ち、ちょっと待ってください、フロイド」  首筋にちゅっとキスをすると、長い舌でべろりと舐めあげ「……ん、まてな~い」と適当に返事をするフロイド。  ちゅ、ちゅ、とリップ音が鎖骨の方へ下りていくごとに「…ん」と声を漏らしてしまうジェイド。でも頭の中はさっきのフロイドの言葉が気になって。 「……ん、フロイド。…ちょっと待って」 「…やだぁ」 「……少しでいいので」  動きをとめたフロイドが不満そうに顔をあげジェイドと視線を合わせました。 「………なあに?」 「…先程の話ですが、僕の目が覚めていたこと」 「うん」 「フロイドに気づいていたこと」 「うん」 「…あなたは知っていたのですか?」    なぜ。と疑問しか浮かばない顔のジェイドに、フロイドは目を弧にしました。 「うん。そうだよぉ♡」  信じられないという顔で「……いったいいつから」とつぶやくジェイドにさもおもしろいといった感じでフロイドが答えました。 「いつって、森で会った時。木の上にいたオレと目が合ったでしょ?」 「………あの時に?」 「そう。あの時に」 「………」 「アズールはキスで記憶が戻ったと思ったみたいだけど、ホントは目が合った時に戻ってたんだよね~」 「……」 「オレらふたりともだよ。すごくね?」    と無邪気に笑うフロイドに呆気にとられたままのジェイド。 「…どうして?」 「え?ジェイドが記憶ないフリしたから」 「…………」 「なんかおもしろそぉ♪って思ってオレもそうしたの」    楽しそうに笑うフロイドにだんだんジェイドも可笑しくなってきてしまいました。 「…ふ、ふふ。さすがフロイドです。僕まで騙すなんて」 「だってぇ。ジェイドをつかまえたかったんだもん」  フロイドの言葉にまたしても「え?」となるジェイド。 「オレ、ジェイドの事好きなの♡」 「…僕もフロイドが、好きです」 「うん、知ってる~♡ でも交尾はしてくれないじゃん」  突然かわるフロイドに焦ってしまうジェイド。 「…それはまだ、僕たちには早いから…」 「前はそのいーわけ聞いたけど、もう聞かな~い。何年たったと思ってんの?」 「だってそれは、記憶喪失だったからで…」 「じゃあ、記憶喪失じゃなかったらした?」 「…僕たちにはまだ、はやいです…」    同じ言い訳をするジェイドにフロイドは「ぷっ、」と笑ってしまいました。 「うん。ジェイドならそー言ってまた逃げると思ったよ。だからオレ、ジェイドの隙ができるのを待ったんだよね」  口角をあげ、にやりと笑うフロイド。 「もう、逃がさねぇから」   そこにはもう可愛いフロイドはいませんでした。    ドレス姿でしたが、立派な雄でした。  覚悟を決めたジェイドでしたが、最後にひとつだけお願いをしました。 「…せめてあの木の影でしてもらえませんか?…ここでは見られてしまうかもしれませんので」    かわいいお願いだったのでフロイドはきいてあげました。    そしてやっと最後まで致すことができたのでした。 めでたしめでたし

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