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第4話
気が付くと、煜瑾 はベッドにいた。
(どうして?)
玄関までの記憶しかない煜瑾は、いつもと変わらない無垢で、どこかあどけなく、それでいて精緻な美貌で、寝室を見回した。
そして、急に玄関で行なわれた「お仕置き」を思い出し、顔だけでなく、全身まで真っ赤になる。そのまま思わず耐えられない恥ずかしさに、スルスルと布団の中に潜り込んでしまう。
(もう…)
どうしていいのか分からず、煜瑾は1人ベッドの中で身悶えた。
(あ…あんな、こと…)
文維 にされた「お仕置き」に、煜瑾は動揺していた。
幼い頃から、「唐家の至宝」「深窓の王子」として大切に育てられ、大人しいイイ子であり続けてきた煜瑾にとって、「お仕置き」などという言葉は知ってはいても、自分とは縁の無いものだと思っていた。
それを、最愛の文維から「お仕置き」されてしまったのだ。「お仕置き」されるような「悪い子」になってしまった自分がショックだった。
その上さらにショックだったのは…。
「煜瑾?まだ寝ているのですか?」
潜り込んでいる煜瑾に、布団越しに声を掛ける文維はいつもと変わらず知的で穏やかだ。
「週末のお休みだから、もっと寝ていてもいいですが…」
煜瑾が横になっているベッドの端が、沈んだのを感じた。文維がベッドに上がったことが分かり、煜瑾は緊張する。
「また…、疲れたのですか?」
からかうように、布団ごと抱き締め、いつも煜瑾をドキドキさせる文維の甘く、誘惑的な声が聞こえる。
「もっと、寝たいのですか?私を独りぼっちにして?」
文維の声に、煜瑾はモゾモゾと布団から顔を出した。
「独りぼっちじゃないです…」
気まずそうな顔を見せた煜瑾に、文維は微笑みかけた。
「おはようございます、煜瑾」
美しく、純真な天使が、自分の恋人であることの歓びに満足しながら、文維は煜瑾の白く秀でた額に、「おはよう」のキスをした。
「お…はよう、ござい、ます…」
またしても何も着ていない煜瑾は布団の中から出るに出られず、モジモジしていた。それを察した文維が、ニッコリしてベビーイエローのフカフカしたバスローブを取り出し、煜瑾の目の前に広げた。
慌ててそれに袖を通し、煜瑾はベッドの上に身を起こした。
「おはよう。今朝のご機嫌はいかがですか、王子様?」
改めて、文維は煜瑾を抱き寄せ、その唇を啄んだ。
「煜瑾?」
唇を許された煜瑾は、困った顔をして、ソッと文維の胸を押し返した。
恋人の「不機嫌」に気付いた文維は、不思議に思って、煜瑾の天使の美貌を覗き込む。
「朝ご飯、出来ましたよ」
「文維…」
急に心細くなったのか、煜瑾は押し返したはずの文維の胸に甘えるようにソッと寄り添う。
「どうしました?まだ眠い?」
「違います…。お腹が空いたのです…」
そんな分かりやすい嘘を吐くカワイイ恋人に、こぼれる笑みを抑えきれない文維だった。
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