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第5話

「はい」  ダイニングテーブルに座った煜瑾の前に、文維は慣れた様子でアールグレイのミルクティーを差し出した。 「文維は?」  下から見上げる煜瑾が(いとけな)く、文維は優しく見守るだけだ。 「せっかくのお休みです。今日は何をして遊びましょうか?」 「文維と…お買い物がしたいです」 「買い物?」  大好きなアールグレイのミルクティーで、かなりご機嫌が良くなった煜瑾は、文維が用意したバタートーストにたっぷりのイチゴジャムを塗り、口に運ぶ。 「これも、どうぞ」  ハムハムと美味しそうに咀嚼する煜瑾が可愛すぎて、文維は忘れそうになっていたイチゴを出してきた。 「文維の作ってくれた朝ご飯は、とっても美味しいです」  ただのトーストに思わぬ賛辞を受け、文維は苦笑した。 「これで終わりですけどね」  唐家であれば、パンケーキや焼き立てのフランスパン、ミルクティーだけでなくフレッシュジュース、洗っただけのイチゴではなく旬の果物が盛りだくさんのフルーツサラダ、それにスープやベーコンやソーセージなど、煜瑾が食べきれないほど出される。  その華やかさ、豪華さ、栄養価に加え、味の方も唐家の朝食の方が何倍も上のはずだった。それでも、煜瑾にとっては愛する文維が自分のためだけに作ってくれた朝食が、何よりも美味しいと思えた。 「買い物と言えば…」  文維は自分用にコーヒーを淹れ、煜瑾の顔がよく見えるように正面に座った。 「もうすぐ煜瑾の誕生日ですね。何か、欲しいものはありますか?」  文維の言葉に、そのロマンチックな長い睫毛を持ち上げるようにして、煜瑾は嬉しそうに見つめ返して言った。 「私は、文維さえいてくれたら何もいりません」  そう言って煜瑾は優雅に首を振った。まさしく高貴な貴公子の仕草だ。  その美しさに目を奪われながら、文維は微笑んだ。 「それはズルいな。私の誕生日には、危険をおかして会いに来てくれたり、素敵なピンブローチをくれたじゃないですか」  そう文維に言われ、煜瑾は恥ずかしそうに俯いた。嬉しそうな文維に、煜瑾も満足げで、数カ月前のクリスマス・イブの幸せな思い出に心を満たした。 「そういえば、お兄様は?お兄様には、プレゼントをおねだりしたのでしょう?」 「おねだりなんて…。お兄さまが、ご自分でお決めになったのですよ」  煜瑾の口ぶりは、すでに兄である唐煜瓔からの誕生日プレゼントを知っているようだった。 「お兄様は、何を?」  さりげない文維の問いかけに、煜瑾はほのぼのとした笑みで答えた。 「お兄様は車を買って下さるそうです。お兄様おススメのイギリス車だそうですが…。私はよく分かりません」 「は?く、車?」  あまりにも何でもない事のように言う煜瑾に、驚いた文維は言葉が出ない。 「言いたいことは分かっています…」  無免許の煜瑾は、ちょっと拗ねたように言うも、すぐに明るく無邪気に宣言する。 「免許はこれから取得しますよ?」 「ソコじゃありません!」 「ん?」

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