6 / 36

第6話

 知的で、端整で、フェロモンたっぷりの魅力的な美男である包文維(ほう・ぶんい)が、クッと苦々しい表情になる。それを見た煜瑾(いくきん)は不安になるが何も言えない。 「車だなんて…。勝てるわけがない…」 「何に?何に勝とうというのですか?」  眉間に縦皺を寄せた文維に、不思議そうな顔をした煜瑾が訊ねる。 「車以上のプレゼントだなんて、何があると?」  苛立ちや不満が入り混じる複雑な感情を必死で押さえ込みながら、文維は小さく呟いた。 「?文維に愛されること以上に、私を幸せにするプレゼントはありませんよ?」  無垢な煜瑾は、文維の男としての意味の無い対抗心など理解できない。 「あ、…ああ、そうですね」  煜瑾の清らかな心を前にして、己を恥じた文維は気まずそうに口を閉じた。 「私の、誕生日プレゼントのせいですか?」  純真で高貴な煜瑾には、文維の葛藤など理解できず、困惑した様子で首を傾げる。そんな煜瑾が愛しい。  この最愛の人に、いつでも幸せだと感じていて欲しい、と文維は心から願っている。今よりも、もっと、もっと幸せになって欲しい、幸せにしたい…。文維が心からそんな風に思えるのは、この唐煜瑾が最初だ。包文維という沈着冷静な男が、生まれて初めて狂おしいほどに恋したのだ。 「煜瑾っ」 「アッ!」  湧き上がる感情が抑えきれず、文維は煜瑾を抱き締めた。 「どうしたのですか?」 「とっても困っています…」  自分を強く抱きしめ、苦しそうに呟く恋人が心配で、煜瑾もまた腕を回してギュッと抱き返す。 「文維…?」 「今、煜瑾のことが愛おしすぎて、とっても困っています」  そう言われても、どうしていいのか分からず、煜瑾はゆっくり動いて文維の頬にキスをした。 「じゃあ…、寝室に戻り…、ますか?」  恥ずかしそうに、文維の耳元で煜瑾が小さく言った。 「堪らない誘惑ですね。…けれど、今日は買い物をして、外でランチを食べて、そして、ベッドに戻るのは夜にしましょう」 「文維…」  2人は少し体を離し、互いを見詰めて、心の奥から嬉しそうに微笑み合った。  そして、言葉を必要としないまま、唇を重ねた。 「さあ、支度をして、出かけましょう」 「はい」  煜瑾は立ち上がり、文維と手を繋ぎ、出掛ける準備を手早く済ませた。 「どこに行きますか?」 「文維と一緒なら、どこでもいいのです」  2人は顔を見合わせて、クスクス笑った。 「でも、私と文維の大好きなカステラを買って、それから文維の香りがするシャンプーとボディソープを買って、ランチは日本式のトンカツ屋さんに行って、台湾式カフェでマンゴープリンを食べて、夕食用にお寿司も買いましょう…。それから…」 「煜瑾が望むなら、全て叶えましょうね」 「…ありがとうございます、文維」  文維と煜瑾は仲良く手を繋ぎガレージに着くと、文維の愛車であるレクサスに乗って、浦東地区のまだ新しいショッピングモールへと向かった。

ともだちにシェアしよう!