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第7話
楽しい週末を過ごし、週明けの月曜日には、文維 だけでなく煜瑾 も次の仕事の打ち合わせがあり、2人は朝食を一緒に摂っただけで、ランチの約束は出来なかった。
文維は、午前のカウンセリングを終え、いつも決まったデリバリーでランチを済ませる張春梅 女史を残し、ランチのためにクリニックを出た。
「ナイスタイミング~」
クリニックの入っているビルの1階にあるカフェから、聞き慣れた声が聞こえて、文維は慌てて振り返った。
「小敏 ?」
「は~い、ドクター」
そこで待ち伏せしていたのは、明るく、人の良い笑顔を浮かべた、文維の従弟 だ。
「ランチに行くんだろう?ごちそうしてよ」
「いいけど…」
「甘え上手のおねだり上手」の従弟が、ランチやディナーを誘いに来るのはよくあることだ。軍の幹部の1人息子で、自身もまた人気の絵本翻訳家として収入に不足はないのに、こうやって人にご馳走してもらうのが大好きなのだ。
「午後からも仕事があるんだ。あまり遠くには行けないよ」
「え~、じゃあ百楽門 の裏のステーキハウスは?」
「ああ、悪く無いね」
こうして2人は仲良く肩を並べて目的の店に向かった。
「そう言えば、もうすぐ煜瑾の誕生日じゃなかったっけ?」
さりげない世間話のつもりで小敏が話し掛ける。
「そこだよ…」
苦々しい顔で、文維は呟いた。
「何が?」
ここで2人は店に入り、何とか隅のテーブル席を確保した。
ランチメニューを注文して、小敏は改めて文維を見た。テーブルに両肘を尽き、そのキレイな指を重ねた上に、小さな顎をチョコンと乗せ、茶目っ気たっぷりのカワイイ笑顔を浮かべている。
「で、何があったのさ?」
興味津々のその目に、文維も逆らわない。
「煜瑾の誕生日に、唐煜瓔が弟に何を贈るか知っているかい?」
「ううん、聞いてない。何?そんなにスゴイもの?」
憮然として文維はボソリと口にした。
「車だよ。しかも、英国車だ」
「おお!いくらくらいするのかなあ~?」
文維の愛車であるレクサスもいわゆる「外車」であるが、さらにレアな印象のある英国車となると、価格設定が想像もつかない。よく分からな過ぎて、小敏は好奇心いっぱいの表情で笑っていた。
そんな小敏に冷ややかな視線を送りながら、文維の中では大事なことを付け足した。
「煜瑾の希望では無いらしいけどね」
「そりゃ、我らが『王子様』が、そんな即物的な物を欲しがるとは思えないよ」
幼い頃から欲しいものが手に入らないという経験をしたことが無い、「唐家の王子様」である煜瑾はに物欲というものが無い。そもそも欲望というものすらないのではないかという、浮世離れした正真正銘の清純な「天使」だ。
「何が欲しいか訊いてみたら、私がいればそれでいいと…」
「煜瑾のお望みが文維ならそれでいいじゃん」
困り切っている文維に、小敏はニッコリして励ましてみた。親友の煜瑾らしい言葉だ、と、微笑ましく思う小敏だった。
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