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第11話

 煜瑾(いくきん)の誕生日の当日は、煜瑾が初めて手掛けたショップのオープニングの日でもあった。  前日の夜はプレオープンのパーティーがあり、文維(ぶんい)と煜瑾は一緒に食事をすることも出来ず、文維は自分のアパートに帰っていた。  1人、高級レジデンスに戻った煜瑾は、寂しさを紛らわせるために文維に電話をして、声を聞いて安心し、翌日に備えた。  そして、誕生日の朝、目が覚めると、そこに文維がいた。 「おはようございます、王子様。お誕生日、おめでとう」  まだ夢の中のような気持ちで、煜瑾は文維からのキスを受けた。 「文維…どうして?」 「どうして?だって、今日は恋人の誕生日ですよ?」  優しく、柔和な文維らしい笑顔に、煜瑾は心から安心感を得る。  愛している、愛されている。それを確信できるのが嬉しかった。 「でも…」  戸惑う煜瑾に、文維は明るく笑った 「今朝は、ステキなパジャマを着ているのですね」 「え?」 「私と朝を迎える時には、こんなステキなパジャマを着ているところは、見たことありませんよ」  なんとなく色っぽいジョークに、煜瑾は、はにかみながらも美しく微笑んだ。 「朝食の用意が出来ています」 「嬉しいです、文維」  ギュッと文維の首に腕を回し、抱き付いた煜瑾は涙が出そうなほど幸せだった。 「顔を洗ってくるといいですよ。その間に、熱いお茶を淹れますね」 「はい」  文維に手を取られてベッドから降り立ち、煜瑾は真珠色のシルクのパジャマのままバスルームへ向かった。  シャワーを浴び、急いで着替えると、煜瑾は文維の待つはずのダイニングに向かった。 「あぁ、文維!」  ダイニングテーブルで、煜瑾を待っていたのは、文維が煜瑾の誕生日を祝うために用意した朝食だった。  熱々のピザトーストに、アスパラガスのベーコン巻き、固ゆでタマゴのハーフカットがメインディッシュ。バナナとリンゴとキウイフルーツに、煜瑾の大好きなイチゴとカッテージチーズのフルーツサラダ。 「どれも、文維が作ってくれたのですか?」 「もちろん。大事な煜瑾のために頑張りましたよ。お口に合うと嬉しいです」  席に着いた煜瑾に、文維は笑いながらそう言って、こめかみにキスをしてキッチンに戻った。  そして、戻って来た時には、両手に新しいマグカップを持っていた。 「はい、どうぞ」  文維が差し出したのは、やはり煜瑾の大好きなアールグレイのミルクティーだった。 「このカップ…」  大好きな紅茶よりも、煜瑾はそのマグカップに目を奪われてしまった。

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