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第12話

 従弟(いとこ)悪戯(いたずら)っ子の羽小敏(う・しょうびん)によく似た、茶目っ気のある笑顔で、文維(ぶんい)は、嬉しい驚きに言葉も出ない煜瑾(いくきん)の美貌を覗き込んだ。 「どう?」  感動の余り、煜瑾は言葉少なく答えた。 「ステキです」  それは、真っ白のお揃いのカップだった。  いつもはコーヒー派の文維も、今朝は煜瑾と同じミルクティーだ。 「見て下さい」  急に文維はミルクティーを飲んだ。カップを傾けると、底が見える。 「え?」  文維のカップの底には、2人のイニシャルである「Y&W」とプリントしてあった。慌てて煜瑾が自分のカップの底を確かめると、そこにも同じものがある。 「煜瑾(Yujin)と文維(Wenwei)…。デパートで名前入れサービスをしていたのですが、恥ずかしいので、カップの底に入れてもらいました。カップが白一色なのは、穢れを知らない煜瑾の心と同じです」  感激してジッと文維を見つめることしかできない煜瑾に、自分のカップをテーブルに置くと、文維は煜瑾の後ろに回り込み、背中から腕を伸ばし、ギュッと抱き締めた。 「こんな物しか誕生日プレゼントは用意できませんが、君への愛情は、誕生日の1日だけでなく、毎日、毎年、この先ずっと変わらずに続きます」 「ありがとうございます、文維。こんな素晴らしいお誕生日プレゼントをいただけて、本当に私は幸せです」  自分に回された文維の腕をギュッと掴んで、煜瑾は幸せを噛み締めるように目を閉じた。 「愛してる、煜瑾」 「私もです…、文維」  煜瑾は首をひねり、背後の文維とキスをした。 「さあ、煜瑾。早く朝食を終えて、お仕事に行きましょうか」 「はい!いただきます!」  満面の笑顔で、煜瑾は白いカップのアールグレイのミルクティーを飲んだ。  明るく爽やかな朝の光の中、文維の作った朝食を、2人で一緒に楽しそうに会話を弾ませながら美味しく食べた、煜瑾30歳の誕生日だった。 ***  朝食を終え、今日のオープニングセレモニーに相応しい、少し明るいシルバー系のスーツに、牡丹(ぼたん)色の鮮やかなドレスシャツ、そこにグリーンとゴールドのネクタイを合わせると、煜瑾のお出掛けの準備は済んだ。メーカーのサラリーマンたちとは一線を画す、いかにもフリーのデザイナーという印象をおしゃれに演出している。 「文維も、もうクリニックへ行く時間ではありませんか?」  5年前の誕生日に、兄、唐煜瓔(とう・いくえい)に買ってもらったダイヤモンドのカフスを止めながら、リビングに戻った煜瑾は、朝食の後片付けをしている文維を心配して声を掛けた。 「大丈夫。君を見送って、ここを片付けて、それから出勤しても間に合います」  恋人を安心させたくて、柔和な笑顔で文維は煜瑾の額に口付けた。 「文維に…、1つだけ、お願いがあります…」 「ん?なんですか?」 「今夜…、文維と一緒に居たいです…」  小さな声で言って、煜瑾はソッと文維の胸に甘えるように寄り添った。  それを嬉しそうに見守りながら、文維は言った。 「煜瑾が帰ってくるまで、いつでも、いつまでも、ここで待っていますよ」

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