14 / 36
第14話
セレモニーでは、唐煜瑾 を集中的に狙ったマスコミからの写真攻勢を受けたが、やたらとコメントを求めるゴシップ記者などからは慣れた百瀬 たちが巧く庇ってくれた。
セレモニーの後で、きちんと約束のあった新聞や雑誌やテレビのインタビューを受ける際にも、目立たないように百瀬と一海 が傍に居て、唐家のことなど今回のショップの開店に関係のないことに話が及ぼうとするとさりげなく助けを出したりもした。
彼らの友情に煜瑾は感謝した。
彼らとの接点を与えてくれたのもまた、高校時代からの親友の羽小敏 だった。
兄に愛され、文維 に愛され、羽小敏や申玄紀 という親友に恵まれ、また今、新たに友達が出来た。
煜瑾は、自分がどれほど多くの人に愛され、友人に恵まれ、大切にされているのかを実感した。
幸せな気持ちで1日を終え、スタッフたちも交えた食事会にも参加した煜瑾は、関係者から次の仕事に繋がるようなオファーも受け、茉莎実 と一海の上司にも紹介され、今後も仕事を紹介すると約束された。
今が幸せで、未来も明るいと信じられるようになった煜瑾は、一刻も早く最愛の人の許に帰りたいと渇望した。
***
タクシーを飛ばし、煜瑾は嘉里公寓 に帰って来た。
急いで文維が待つはずの自室に走る。
幸せで、幸せ過ぎて、最愛の人と分かち合わずにいられない煜瑾だった。
もう時刻は午後10時を過ぎている。文維は夕食を済ませただろうか。1人で、寂しい想いをしていないだろうか。
心配で胸をざわつかせながら、煜瑾は自分の部屋のドアを開けた。
「今、帰りました、文維!」
ドアを閉めるとほぼ同時に、手にした荷物を放り投げ、真っ直ぐに明かりの点いたリビングに駆け込んだ。
「お帰り、煜瑾」
文維は、煜瑾のお気に入りのソファに泰然と腰を掛け、恋人を迎えた。
「文維…」
相変わらず温柔で紳士的な笑みを浮かべる恋人に、煜瑾はうっとりと見とれてしまった。
それ以上何も言えずに、煜瑾は文維の胸に飛び込み、らしくない積極的な態度で自分からキスをした。
「煜瑾…」
一途な煜瑾が愛しくて、文維は強く抱き留め、煜瑾に負けないほどの積極性で激しく求める。
「…っ…ん…」
早急なキスと愛撫に煽られ、煜瑾は夢中になる。
「あ、…あ…ん、文維…」
過敏で、艶麗で、魅惑的な煜瑾に、文維も我を忘れそうになった。
「あ、待って…。お願いです。待って下さい」
ハッと気づいた煜瑾は、身悶えながら、文維の胸を押し返した。
「なぜ、ですか?」
文維は荒い息の下でも、煜瑾に対して紳士的な態度を崩さぬよう、努力していた。
「き、今日は…、私の誕生日です」
「そうですね」
「今夜は…、ぶ、文維を…、文維の全部を…わ、私に、下さい」
恥ずかしさに真っ赤になり、声も絶え絶えになりながら、煜瑾はやっとそれだけを言った。
「私はいつでも、全て煜瑾のものですよ。煜瑾が望むなら、何もかも君に捧げます」
文維はそう言って、もう一度、優しく、深い口づけを恋人に与えた。
ともだちにシェアしよう!