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第16話
(小敏 、お前って子は…こんな清純な煜瑾 に、何を…)
文維は、従弟 に対して、怒りのような、恨めしいような複雑な感情を抱きながらも、素直に小敏のアドバイスを受け入れてしまう、無垢な煜瑾が可愛くてならない。
「それから…」
「いや、もう結構」
小敏のアドバイスを真 に受けた煜瑾は、言葉を続けようとするが、慌てて文維は制止する。
止められた煜瑾は承服できない様子で、実直な顔をして続きを言いかける。
「他にもあるのです!小敏に教わったことが!…私は、今夜こそ、ぜひ文維で試してみたいのです…」
「ダメです!」
断固たる態度で言下に拒絶され、煜瑾は不満そうに唇を噛み、文維を見返して珍しく言い返す。
「どうしてですか?」
文維を喜ばせたい一心の煜瑾は、拒まれる理由が理解できない。
そんな一途で健気な目で見つめる煜瑾に、文維は決して汚れて欲しくないと切実に思う。いつまでも、清純で、無垢で、初心な煜瑾であって欲しいと文維は願ってしまうのだ。
それが、自分勝手な理想だというのは、英明な文維には分かっている。
それでも、今の煜瑾を愛する文維は、今のままの煜瑾でいて欲しいと思った。
「煜瑾に、そんな子になって欲しくないからです」
「『そんな子』?それって、どういう意味ですか、文維?」
理解できないことが、もどかしい煜瑾だ。
「煜瑾には、いつまでもカワイイままでいて欲しいのですよ、私は」
優しく、丁寧に文維は煜瑾の髪や頬を撫で、自分のエゴだと思いつつも、煜瑾が変わらないで欲しいという気持ちが通じればと祈った。
「でも…、せっかく文維が喜ぶようなことを教わったのですけれど…」
思いも寄らぬような知識を得て、それを実技で試すことが出来ないことが名残惜しい様子の煜瑾を、文維は見咎めた。
「ダメです!小敏が言ったことは、全て忘れなさい!」
「でも…」
何度注意されても、新しく知ってしまったことを文維にも教えたくて未練が残る煜瑾である。無垢であるがゆえの、未知への好奇心が溢れる煜瑾の気持ちが分からなくもない文維だが、それと愛する煜瑾が変わってしまうことは別の問題だった。
「私は、今のままの煜瑾がすきなのです。どうか、変わらないで下さい」
誠実な態度で、真面目な声で、文維は恋人に懇願する。そんな様子に、煜瑾は文維の望まないことを、自分もまた、したくはないと思った。
「はい…」
それでも、渋々と言った表情で、煜瑾は今夜の「野望」を諦めた。
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