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第17話
「さあ、煜瑾 …」
ベッドの中で煜瑾を抱き寄せ、文維 は静かに話し始めた。
「今日は、煜瑾の誕生日ですから、なるべく煜瑾の望みを叶えてあげたいのですが…」
「…ごめんなさい、文維。もう文維の嫌がることはしません…」
よく理解した煜瑾の素直さと聡明さに安心して、文維は感謝を込めて腕の中の恋人のこめかみに口付けた。
「これから、何度も互いの誕生日を一緒に過ごすことになるでしょう」
「はい…ずっと、そうでありたいと思っています」
少し心が浮き立ったように煜瑾は答えた。
「でも、その日1日だけでなく、いつでも煜瑾の幸せを願う人間でありたいと、私は思います」
「文維…。私も…」
それ以上、感激で何も言えなくなった煜瑾は、自分から文維の唇を塞いだ。
「煜瑾…大好きです…」
「ふふふ…一番嬉しいお誕生日プレゼントです」
穏やかに微笑み合い、静かに抱き合って、互いに温もりを味わっているだけで充分に幸せだった。
その時、煜瑾がベッドサイドの時計に気付いた。
「あ…」
「どうしました?」
煜瑾は、クスリと笑って、文維に身を寄せた。
「日付が変わりました…。もう私の誕生日ではありません」
「…ああ、申玄紀 の誕生日ですね」
面白がっているように文維が言うと、煜瑾はちょっと拗ねた顔をした。
「お誕生日だからって、玄紀にさっきの言葉を言わないで下さいね」
「さっき?」
わざと惚ける文維に、煜瑾は言い返せずに唇を噛んでしまう。そんな煜瑾の高校時代から見慣れた癖が、文維には微笑ましい。
「『大好き』って言っていいのは、私にだけ、ですよ、文維」
恥ずかしいのか文維を見ようともせずに、そう言ってベッドの中で寝がえりをし、煜瑾は文維に背を向けた。
「当たり前じゃないですか、私の王子様」
甘い声でそう言って、文維は煜瑾を背後から抱きしめた。
「私にとっても、文維は大切な王子様です…」
背を向けたまま、赤い顔をして煜瑾はちょっと嬉しそうに言った。
「嬉しいです…」
そう言いながら文維は、煜瑾の赤くなった首筋に唇を寄せた。そのまま、その美しいカラダに不埒な手を這わせる。
「文維…、困ります…。こんな…、こんな…」
「こんな、体位、初めてで、怖いですか?」
「……」
これまで、誰とも分からぬ男に傷つけられた煜瑾が怯えることの無いよう、文維は性交時も細心の注意をしていた。
いつも愛し合う時は、文維が煜瑾の顔を見ると言うよりは、むしろ煜瑾自身が、今、自分が誰に抱かれているのかを確認させるために正面から抱くことにしていた。
だが、今夜は冒険をするつもりの文維だった。
「あ、…ぁ…ん…」
戸惑っているようではあるが、煜瑾は確かに官能を目覚めさせていた。
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