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第18話【R18】

「痛くはないですか?」  くすぐるような柔らかく、セクシーな声で文維(ぶんい)が囁くと、過敏な煜瑾(いくきん)は息を呑んで全身を震わせる。 「煜瑾…、煜瑾…。入っても…いいですか?」 「…文維…」  背中にピタリと寄り添った文維の全身の体温を感じながら、煜瑾は見悶える。ゆっくりと文維が陶器のような煜瑾を愛撫する。その温かさ、優しさ、そして淫らなタッチが煜瑾に火を点けた。 「好きです…。愛しています、煜瑾…」  耳の後ろから聞こえる声に、煜瑾はウットリと目を閉じた。まるで暗示にかけられたように、煜瑾は自分の体が快楽を求めていくのが分かった。 「ぶ…文維…。欲しい…です。私は、文維が…今すぐに、欲しいです…」  泣きそうになりながら、煜瑾は素直な気持ちを口にした。 「ぁあっ…!」 「ステキですよ…煜瑾」  背後から強く抱きしめ、文維は煜瑾の前に手を伸ばし、快感を高めようと優しく握り込んだ。 「あ…、は…ぁ…、はあ…」  苦しそうに息を荒らげ、煜瑾は身を硬くする。そんな、まだまだ初心(うぶ)な煜瑾が愛しくて、文維は頬を緩める。 「力を抜いて下さい…、煜瑾」 「文維…、わ、私…」  湧き上がるような淫猥な悦楽に、煜瑾は怯えながらも、そのまま愛しい人に身を任せた。 ***  明け方に、文維は目を覚ました。  心地よい香りが鼻先をくすぐる。それが、愛する煜瑾の髪の香りだと気付いて、文維は口元を緩めた。  すぐそこに煜瑾はいる。健やかに、穏やかに、幸せそうに眠っている。それだけで文維もまた、この上ない多幸感を感じ、なぜか涙ぐんだ。  生れてから、これほど心を揺さぶられる体験は知らなかった。  物心つく頃にはすでに神童と呼ばれ、何事にも理解が早く、あらゆることに予測が付くような気がして、心から感動するということなど無かった文維の幼少期だった。  いつでも泰然として、落ち着いていると周囲の大人たちからも一目置かれるほどだった。  思春期頃になると、そんな態度がクールだと囁かれ、性別に関わらず熱っぽい視線を送る人間が増えた。  高校時代、そんな視線を送る1人が唐煜瑾だった。  上海一の美少年と噂され、名門「唐家の至宝」「深窓の王子」と呼ばれた、気位が高く、人見知りの激しい、孤高の美貌の少年…。そんな特別な煜瑾に想われることは、決して不快では無かったが、無垢で、穢れを知らない人形のような煜瑾は幼過ぎて、すでに性的な目覚めを感じていた文維には物足りなく、恋愛の対象にはならなかった。  それが、こんな風に、美しく、悩ましく、大人としての経験値を積んでいる文維さえ誘惑されるほど艶めかしい美青年となった「唐家の至宝」が、今では文維1人のモノとなったのだ。 (私は、前世で、ものすごい徳を積んだのかもね) 1人そんなことを思い、小さく笑いを浮かべて、天使のようにスヤスヤと眠る煜瑾の前髪に触れた。

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