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第21話
「まあ、ステキなお庭ね~」
包文維 の母で、いつまでも少女のような可憐さを持つ恭安楽 は、初めて訪れた唐 家の邸宅に感激していた。
「お母さま、落ち着いて」
はしゃぐ母親を恥じるように、一緒に来た文維が小声で注意するが、耳には届かないようだ。いつも物静かで冷静な学者の父は、ただ穏やかに笑っている。
包家で、家族だけで祝うはずだった唐煜瑾 の誕生日パーティーだったが、煜瑾が兄を招待すると言い出すと、兄の唐煜瓔 は広大な邸宅の庭園をガーデンパーティーの会場として提供することを申し出た。
初めは、自分の計画を横取りされたように思った文維の母は不機嫌になったが、煜瑾のカワイイお願いに、すぐに気を取り直した。
ケーキやお菓子は包夫人の持ち込みとされ、サンドイッチなどの軽食や飲み物は唐家が用意をするということでうまく折り合いが付き、前日までの飾り付けや招待状などは、親友の羽小敏 や申玄紀 が手配した。
「叔母 さま~!」
遅れてきた羽小敏が、後ろに大荷物を抱えた申玄紀を従えて現れた。
包夫人の手作りケーキはすでに文維によって運び込まれていたが、焼き菓子やトリュフチョコレートとプレゼントは、玄紀の車で小敏が運んできたのだ。
「ありがとう、小敏」
お気に入りの甥・羽小敏が、お気に入りの唐煜瑾のために身を尽くして働いてくれたことを、包夫人は感謝していた。
「お義母 さま~、お義父 さま~!」
「煜瑾ちゃん!」
今日の主役として、煜瑾は自分のレジデンスから、唐家の運転手である王 さんにお迎えに来てもらい、唐家の自室で、着替えを済ませた。
そして、車の代わりに兄からのプレゼントであるパティックフィリップの腕時計と、イタリアの高級紳士靴、アンディデムジュールのローファーを身に付けた。この2点で、車さえ買えそうな値段だ。
支度が出来た煜瑾は、1人で待つことがイヤになり、会場の仕度が調う前に庭へと飛び出してしまった。
包夫妻に笑顔で迎えられ、駆け寄った煜瑾だったが、すぐに恋人の隣に並んだ。
「文維!」
満ち足りた幸せに、輝くような煜瑾の美貌に、誰もが目を奪われる。
美しく、優しく、穢れない天使のような煜瑾が、幸せそうにしているだけで、その周囲にいる者までが幸せな気持ちになるのだ。それが、高貴な煜瑾の人徳だった。
「煜瑾。今日の服もステキですね。それと…」
文維は目敏く煜瑾の左手を取った。
「この時計…」
それは、文維が愛用する時計と同じブランドのスイス時計だった。
「お兄さまからのプレゼントなのです…」
それ以上は多くを語らず、煜瑾と文維は目を見合わせ、2人だけが分かる理由で微笑んだ。
「煜瑾ぼっちゃま!勝手にお庭に出てしまわれて…。お屋敷でお探ししていたのですよ」
唐家の茅 執事が、使用人たちを引き連れて庭に出てきた。
さりげなく文維が煜瑾の前に立ち、庇おうとする。
使用人たちは包夫人手作りのカップケーキを始め、ステキなプチフールや料理を次々と運んで来る。
「おめでとうございます、煜瑾さま」
「ねえや!」
大好きな胡娘 に祝われて、煜瑾も嬉しそうにしている。
「皆さん、本当にありがとう」
誰にも感謝を示す寛容な煜瑾の輝く笑顔が、いつまでも続くことを、この場にいる全員が願っていた。
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