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第22話

煜瑾(いくきん)!今日はお招きありがとう」「こんにちは!煜瑾さん」  煜瑾の、最近の仕事仲間であり、煜瑾の親友・羽小敏(う・しょうびん)の友人でもある、桜花企画活動公司(サクラ・イベントオフィス)百瀬茉莎実(ももせ・まさみ)石一海(シー・イーハイ)が、大きな花束と、最近は中国富裕層の間でも人気の、日本の子供服ブランドの大きな白いクマのぬいぐるみをプレゼントとして持参した。 「大人の男性にぬいぐるみをプレゼントっていうのも失礼かもしれないんだけど…。このクマちゃんの肌触りが最高なのよ」  そう言って百瀬が真っ白なクマのぬいぐるみを煜瑾に押し付けると、煜瑾もそのクマの肌触りの良さと、心地よい重さに驚きを隠せなかった。 「え!こんなに気持ちいぬいぐるみ、初めてですよ!」  嬉しそうな煜瑾に、百瀬と一海も満足げに微笑む。 「あ、コレも…」  とても活き活きとしたビタミンカラーの花を何種類も集めた、見ているだけで元気になりそうな花束を差し出した一海だったが、煜瑾がギュッとぬいぐるみを抱いたのを見て躊躇してしまった。  それに気付いた文維が、何も言わずに穏やかな笑みで代わりに受け取った。  長身でハンサムな文維はそれだけでも目を引くというのに、そのうえこれほど細やかな気遣いが出来て、紳士的で、優しくて、穏やかで…と、あまりに魅力的過ぎて、若い石一海は圧倒されて、ちょっとポッとなってしまう。  けれど、文維の魅力が人の気を引いてしまうことを知っている煜瑾は、今さらこの程度の事で嫉妬はしない。 「さあ、ケーキが来ましたよ!」  その声に、皆が一斉に振り返った。  包夫人の手作りのバースデーケーキと聞いていたので、家庭的な可愛らしいものを想像していた煜瑾だったが、唐家の楊シェフが、フルーツを盛りつけた大皿にケーキを乗せて運んで来ると、それはまるで有名パティシエの作品のように立派に見えた。  ケーキは、煜瑾の大好きなイチゴをふんだんに使った贅沢なケーキで、しかも唐家でのガーデンパーティに変更になったことで、参加者人数が増えることを見越した包夫人が見事な2段のケーキにしていた。 「わあ~カワイイ~」  ケーキを見るなり、あちこちから歓声が上がる。  2段のケーキは、表面までイチゴを使ったピンクのクリームでコーティングされていて、さまざまにカットされたイチゴがタップリと飾られているが、トップにはカラフルなチョコレートペンで、「Happy Birthday Yujin」という言葉と共に、可愛らしいチューリップの絵が描かれていた。  それを見た煜瑾と文維は、目を合わせて微笑みを交わす。そのチューリップの意味を、2人はよく分かっているからだ。  メイドの1人が、文維が預かった花束が萎れないようにと、一時的にキッチンに引き取った。手が空いた文維は、煜瑾が気に入ったらしいぬいぐるみを預かり、煜瑾がロウソクを吹き消す用意をした。

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