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第23話

 ちょうど、その時だった。 「お兄さま!」  緊急の仕事で少し遅れた煜瑾(いくきん)の兄・唐煜瓔(とう・いくえい)が、有能な秘書2人を引き連れてようやくパーティー会場に現れた。 「急な仕事で遅れてしまった。悪かったね、煜瑾」  大好きな兄の顔が見られたことで、煜瑾の笑顔がさらに華やぐ。  唐煜瓔も嬉しそうで、(ぼう)執事から点火マッチを受け取ると、煜瑾のケーキの上の3本のろうそくに火を点けた。 「さあ、煜瑾。願い事をしなさい」 「はい」  兄に言われて、煜瑾は指を組み、目を閉じ、熱心に何かを願った。その姿が、神聖で神々しく、誰もが好感を抱いた。  やがて、煜瑾はその印象的な黒い瞳をパッチリと開いた。 「你的生日快楽(ハッピーバースデートゥユー)~♪…」  そのタイミングで、羽小敏(う・しょうびん)がバースデーソングを歌い始める。全員がそれに合わせて歌い始めた。 「你的生日快楽~♪…」  煜瑾は真剣な表情をして、ロウソクを一息で吹き消した。 「お誕生日おめでとう、煜瑾!」「おめでとうございます、煜瑾さま!」 「ハッピーバースデー、唐煜瑾!」  みんなが口々に煜瑾を祝い、拍手をし、心から楽しく笑った。 「さあ、煜瑾ちゃん!ケーキを切ってちょうだい」  包夫人の言葉に、煜瑾は大きく頷き、ナイフを取り上げた。  そして、そのままピンク色のケーキに刃をいれようとしたが、煜瑾は急に手を止め、思い付いたように傍に寄り添う文維(ぶんい)を振り返った。 「文維…、お願いします」  煜瑾はそう言うと、文維の手を取り、同じナイフを一緒に握った。 「わ~」「きゃ~」  2人は睦まじく、1本のナイフでケーキを切った。 「ステキね。まるでウェディングケーキみたい!」  百瀬(ももせ)が大はしゃぎで声を上げると、周囲からも声が上がる。  その声に、煜瑾も嬉しくなったのかケーキを1切れお皿に取ると、フォークでひと口取って文維の前に差し出した。  照れながらも文維はそれを口に入れ、すぐに同じフォークで煜瑾の前にケーキを運んだ。それを、頬を紅くしながら煜瑾はパクリと食べた。  それが、あまりにも満ち足りていて、愛に溢れていたために、その場にいた全員を幸せにした。  煜瑾は何もかもが嬉しくて、大好きな文維を見つめ、頬に手を伸ばすと、そのまま皆が見守る中、素早くキスを1つ奪った。 「おめでとう、煜瑾!」  小敏の歓声に、呆気にとられていた人々も、急に我に返ったように祝福した。この中には、誰一人として唐煜瑾と包文維の関係を否定する者はいなかった。誰もが2人の幸せを祈り、信じていた。 「おめでとう!」「おめでとうございます!」  煜瑾は、今までで一番幸せなお誕生日パーティーだと、心からこの世界に感謝した。

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