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第24話
「煜瑾 、お誕生日おめでとう。そして…、婚約おめでとう」
兄・唐煜瓔 に言われて、煜瑾はその黒く深い印象的な瞳をそちらに向ける。
「もう、ここにいるみんなが2人を祝福している。将来はともかく、今の2人は婚約したと言ってもいいだろう?」
唐煜瓔はそう言って弟に近付き、静かにその胸に抱き留めた。
「お兄さま…」
煜瑾は感激して兄の胸に大人しく収まっていた。
そのまま唐煜瓔は、呆然としている文維 に目をやった。
「問題はないかな?」
「あ、は、はい…」
すっかり委縮した息子に同情したのか、包夫人が唐煜瓔に近付いた。
「ありがとう、唐煜瓔さん」
「包夫人…」
彼女の意図が分からず、唐煜瓔は戸惑った目をする。
「本当に、煜瑾ちゃんはとってもイイ子。こんなにキレイな心のまま育ったのは、お兄さまが、大切に愛情深くお育てになったからだわ」
煜瑾は、大好きな「義母」に兄を褒められて嬉しそうにしている。
「考えてもごらんなさい。煜瓔さんは、文維の歳には1人でしっかりと煜瑾ちゃんを育てていらっしゃったのよ。そんなことが、今のあなたたちにできて?」
母の指摘に、文維は改めて唐煜瓔の偉大さを知った。
「あなたにとって大切な『唐家の至宝』は、これからもみんなで大切に守っていきましょう。でも、煜瑾は必ず文維が幸せにします。だから…」
包夫人は、煜瑾を抱く唐煜瓔ごと抱き締め、文維もまた引き寄せた。
「みんなイイ子よ。みんな幸せになっていいの。だから次は、煜瓔さん、あなたが幸せになる番ですよ」
「包夫人…」
思わぬ包夫人・恭安楽 の母性に触れて、唐煜瓔は心が動いた。これまで、幼くして両親を喪った可哀想な弟を慈しむことばかりを考えてきた唐煜瓔だった。しかし、彼もまた若くして両親を喪い、心細い日々を送って来たのだった。
「もう煜瑾ちゃんにとって、私は『ママ』よ。だから煜瓔さんにも『ママ』って思って欲しいわ」
包夫人が優しく言うと、煜瓔は長年の張り詰めた気持ちが解されるように感じた。
「包夫人…。お義母さま…」
包夫人は、煜瑾と文維は解放したが、すっかり気に入った唐煜瓔の腕を放さず、人の輪に戻った。
するとなんと、その場には遅れてきた申玄紀 の両親までが珍しくやってきた。唐家とは兄弟の両親の頃からの付き合いなのだ。
「まあ!お久しぶり!」
どちらも政府高官の令嬢出身である、文維の母と玄紀の母は旧友で、久しぶりの再会に大いに盛り上がる。
「ねえ、私たちで煜瓔さんのお嫁さんを探してあげませんこと?」
「まあ、ステキなお話ね」
あっと言う間に、その場の主役は煜瑾から兄の煜瓔に変わった。
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