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第30話
「煜瑾 ちゃん、来週から煜瓔 お兄さまがイギリスのご本家に行かれるの、知っていた?」
「いいえ。そうなのですか?」
文維 の母の包 夫人と、玄紀 の母の申 夫人は煜瑾を取り囲み、はしゃいでいるように見えた。そんな彼女たちに戸惑い、煜瑾は兄の方を振り返った。
その視線の先に居た唐煜瓔は困ったように微笑み、近寄ってこようとはしなかった。
「?」
「私たち、ステキなお嬢さんを紹介しようとしたのよ」
「でも要らぬお節介だったようよ」
2人の奥様達は、少女のようにクスクス笑うばかりだった。
「叔母さま、煜瑾を独り占めしないで下さい」
小敏 に救い出され、今度は、煜瑾は友達に囲まれた。
「玄紀、忙しいのに、いろいろとありがとう」
煜瑾が感謝すると、長年の付き合いでありながら、玄紀は幼馴染の匂い立つような美しさにドキリとする。
「い、いや…。大したことはしていません。煜瑾に喜んでもらえたら十分です」
「ボクも、感謝してるよ、玄紀」
からかうように小敏が言って、ウィンクを送ると、玄紀は目を輝かせた。
「これは、私からのプレゼントです」
そう言って玄紀が差し出したのは、高級感のあるクリーム色の封筒だった。
「開けてみても?」
「すぐに開けてみてよ、煜瑾」
玄紀より、むしろ小敏に急かされて、煜瑾は封筒を開いた。
「わあ…」
中を確認して、煜瑾は嬉しさと恥ずかしさに白い肌がピンク色になった。
「え?これは大連の高級ホテルのペア宿泊券?」
「あ、小敏!」
封筒の中身を小敏に取り上げられ、煜瑾は戸惑うが、親友の悪戯には慣れているので苦笑している。
「うわあ、スゴイ、最高級ホテルの、最高級スイートルーム2泊分だって」
大げさに声を上げる小敏に、煜瑾は恥ずかしくていたたまれなくなるが、その顔は嬉しそうで、幸せいっぱいだ。
「ありがとう、玄紀。とってもロマンチックなプレゼントですね」
煜瑾の背後から文維が代わりに言った。
「2人には、ピッタリだね」
小敏がニッコリして言うと、煜瑾は文維に肩を抱かれ、素直に頷いた。
そんな満ち足りた2人を見つめていた玄紀が、ちょっと寂しそうな顔をした。
「私も、もうすぐ大連を離れて上海に戻ってきます。父の…仕事を覚えるために」
「大好きなサッカーをやめるのですか、玄紀?」
心配した煜瑾の言葉に、玄紀は肩を竦め、それを複雑な表情で小敏が見つめていた。
「大好きなだけでは、一生を送れませんよ」
玄紀の薄い笑いを、3人の友人は心配そうに見ていた。
煜瑾は小敏や、包夫妻や申夫妻、唐家で働く人たちからもたくさんのプレゼントを受け取り、驚いたり、笑ったり、感激したりと大騒ぎだった。
煜瑾はこれほど素晴らしい誕生パーティーを過ごせる自分自身の幸運を心から感謝し、それをもたらした文維の愛情がいつまでも自分のものだということが嬉しかった。
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