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第31話
「ありがとうございました、お義父 さま、お義母 さま」
「お父さま、お母さま、お気をつけて」
タクシーで帰宅する包 夫妻に別れを告げ、煜瑾 と文維 は並んで見送った。
「じゃあ、またね、煜瑾!文維も」
小敏 は、玄紀 の車で送ってもらうらしい。玄紀は少しくすぐったそうな顔をしている。
「近く、私の引退セレモニーがあるらしいので、ご招待しますね」
「玄紀…」
明るい顔の玄紀に、煜瑾の方が心配そうな顔になる。そんな煜瑾の肩を抱き寄せた文維が、何もかも分かった様子で玄紀に頷いた。
「玄紀の居場所が変わっても、私たちはいつでも君を応援しているから」
そんな文維の言葉に、少し照れたように笑い、煜瑾に手を振ると、小敏と一緒に愛車に向かった。
「あ!茉莎実 ちゃんたちも乗ってかない?」
自分の車でもないのに、小敏は友人の百瀬 と石一海 を誘い、玄紀のドイツ車に乗せた。
「煜瑾~!今日はありがと!また一緒にお仕事しようね!」
百瀬と一海の満面の笑顔に、煜瑾も笑顔を取り戻した。
「バイバイ~」
小敏が大きく手を振って、煜瑾の友人たちは帰って行った。
兄の煜瓔 と話していた玄紀の両親である申 夫妻は、お抱えの運転手の車に乗って唐家を去った。
他にも、煜瑾の知り合いというよりは兄の関係者が何人かいたが、それらも帰ってしまい、後に残ったのは、煜瑾と文維、そして唐煜瓔はじめ唐家の使用人たちで、それらは皆、唐家の「家族」だった。
人が去り、パーティー会場の片付けが始まると、煜瑾と文維は取り残されたような気になる。
「ねえ、文維?」
「はい?」
文維は、寂しさを感じた煜瑾が早く2人きりになりたがっているのだと思った。
その煜瑾が、ソッと手を伸ばし、文維の手を取るとギュッと握った。
「今夜は、ここのゲストハウスに泊まっていきませんか?」
「え?」
煜瑾と2人で甘い夜を過ごしたいと思っていた文維だったが、まさかこの唐家でそれが出来るとは思っていなかった。
「ふふっ。お兄様が唐家の母屋に文維のお部屋を下さらなかったのは、イジワルではなかったのですね」
ポツリと呟いた煜瑾に、文維は驚いて目を見開く。そんな文維に、煜瑾はクスクスと茶目っ気たっぷりに笑った。そして、意味ありげな流し目を1つ送る。
「あのゲストハウスでなら、何をしていてもお兄さまたちには分かりませんよ」
「煜瑾…?」
あまりにも清らかな笑顔で言う煜瑾に、文維は煜瑾の目的が自分と同じではないのかと思った。
「…今夜は、文維に…いっぱい愛して欲しいです…」
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