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第2話
「本日はお時間頂き、ありがとうございます」
事務所に着いて、水春と対面した晶は、ほう、と思った。
塩顔男子と言えば手っ取り早いのか、しかしくっきりした瞳からは意志の強さが垣間見え、軽くパーマがかかった髪を無造作風にセットし、スラリと高い背は、厚着をしていても鍛えて程よく筋肉がついていることが分かる。間違いなく、女性にモテるタイプだ。
「東水春です。よろしくお願いします」
(これは中々の逸材が向こうから来てくれた)
「真洋、ちょっと相手しててくれ」
「はーい」
真洋も水春を気に入ったのか、上機嫌だ。それよりウザイのは、それを見て嫉妬している、和将だ。
「ちょっと来い」
晶は和将を少し離れた所に連れていく。
「お前から見て、アイツはどう思う?」
「ん? 別にフツーにイケメンだと思うけど?」
そうじゃなくて、と晶は和将を睨む。今は嫉妬とかそういうのは要らない、と言うと、和将はため息をついた。
「素直そうでいい子だと思うよ」
晶はちらりと横目で水春を見た。真洋は営業用スマイルと、鍛えられたトーク力で水春の情報を聞き出していく。晶の意図を汲んでくれた真洋は、さすがだなと思った。
「へぇ、ホントに俺たちのデビューから観てくれてたんですね。え、いつもその番組は観てたんですか?」
「そうなんです。いつかオレも出たいと思ってて……」
「そうなんですね! 俺も何回か出演させて貰いましたけど、ちゃんと音楽を届けたいって熱量がすごいですよ、あの現場は」
「へぇ……!」
何だか本当に盛り上がっている。戻るタイミングを逃した晶は、和将を次の仕事に送り出した。
「でも、どうしてあの番組なんですか? ってか、その前に、どうしてウチに入所したいと思ったんです?」
真洋がそう言ったタイミングで、晶は真洋の隣にそっと座る。
「えっ、いや、その……」
今まで普通に話していた水春は、突然歯切れが悪くなる。晶がじっと水春を見ていると、うっすらと耳元が赤くなっていった。
(俺が好きなのは、本当らしいな)
「ホント、Akiさんの作る曲が大好きで……」
水春は、ある曲のタイトルを口にした。それはCM曲で、三十秒にも満たない曲なのに、よく調べたなと感心する。
「実は、他にもメジャーデビューしないかって、声が掛かってたんです。色々とタイミングが悪くて流れたんですが、やっと連絡させて頂く事ができました」
(なるほどね……デビューするなら俺の事務所からが良いってか)
しかし、それよりも気になるワードがあったので、そちらを突っ込んで聞いてみる。
「タイミングが悪かったってのは、何だ?」
すると水春は困ったように眉を下げた。
「母が倒れたんです。治療する為に、この事務所の近くの病院に転院できたので、これもまたチャンスかなと」
ここの近くの病院と言えば、あそこか、と晶は思い浮かべる。
「ただ……」
そこで水春の顔つきが変わった。真剣な、思い詰めたような表情は、二年前の真洋を連想させる。
「先進医療を受けさせてあげられるだけのお金は無くて……だから、絶対に売れないといけないんです」
水春は真っ直ぐ晶を見てくる。先程晶を見て、照れていた人とは違う人のようだ。
「……それじゃあ、あまりダラダラとしてられないな。あんた、ウチに住み込みで付き人できるか?」
「え……?」
晶は考えた事をそのまま言うと、水春はキョトンとした。この、思い付いた事をそのまま話してしまい、説明が後手後手になるクセは、どうしても抜けない。
「ウチなら病院も近いし、曲作りのための環境が整ってる。俺に付いていれば、仕事の進め方も見学できる。どうだ?」
これは、どう見ても水春にとって破格の条件だった。
水春の表情がみるみるうちに明るくなっていく。真洋が「合格したみたいだな」と笑っていた。
「ありがとうございます!」
水春の笑顔は、やっぱり素敵だった。
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