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第4話
「却下」
「ええ? 何でですか!?」
水春が付き人生活を始めて一週間、彼は作曲活動を少しずつ始めていたらしく、晶の元へ曲を持ってきた。
しかしセオリー通りでつまらない。これでは客は聞こうと思わないし、何も印象に残らない。
「自分で考えろ」
今まではインディーズで、これでもやってこれたのだろう、ルックスと歌声に助けられていたと、自分で気付いて工夫しない限り、身につかない。
(わざわざ教えてやるほど、俺は親切じゃないしな)
頭を抱えた水春を横目に、晶はスマホを眺めた。
あの時、水春の母親に言われた言葉の意味を、水春に聞かれなくて良かったと思っている。晶の事情を話したのは真洋だけだし、真洋以外に知って欲しいとは思わない。
(なんかスッキリしねぇな……かといって、今は相手してくれる奴いねーし)
唯一気兼ねなく話せる真洋は、今は和将の所だろう。
テキトーな奴捕まえるか、と眺めていたスマホの連絡先を漁る。今日これから会えないかとSNSで数人に送ると、一人すぐに返信がきた。
晶は立ち上がって準備する。水春は不思議そうに眺めていたが、出掛けると分かったようで「どこへ行くんですか?」と聞いてきた。
「プライベートな用事だ。付いてくんなよ」
そう言うと水春はピタリと動きを止める。どうやら付いてくるつもりだったらしい。
晶はイヤーマフとコートとマフラーを身につけると、すぐに家を出る。
家から歩いて数分のところに、以前はよく通っていたバー『A 』がある。普段は夜しかやっていないが、晶はためらわずドアを開けた。
「昼間からナニかと思えば……久しぶりに会ったのにそのシケたツラやめてよね」
バーカウンターの奥から、クマのような男がやってくる。この人物が『A』の店長であり、晶が先程捕まえた人だ。
「……悪ぃ」
素直に謝ると、店長は「あらヤダ、明日は大雪ね!」なんてはしゃいでいる。
「真洋ちゃんに振られちゃったから行く宛て無いんでしょ? アタシで良ければ相手するわよ」
そう言って、温かいお茶を出してくれた。営業時間外だと言うのに、破格の扱いだ。
晶は黙ってカウンター席に座る。
「……なんか晶ちゃんが黙ってると調子狂うわね。本当に慰めてあげようか?」
店長はそう言いながら、晶の隣に来た。太い腕に肩を抱かれて、引き寄せられる。
「俺は店長のタイプじゃないだろ……」
「そうね。身長と胸囲はあと五十センチは欲しいかしら」
そう言って笑った店長は、優しく肩を叩いた。
「アタシもだけど、晶ちゃんもややこしい趣味してるわよね。女装してるけど、女になりたい訳じゃない。男として男が好きなんだもんね」
大男を屈服させたいという性嗜好の店長に言われたくない、と晶は思うけれど黙っておく。
「良いわよ、一度くらいなら……真洋ちゃんには黙っておいてあげる」
「そこで真洋の名前を出すとか、ホント趣味悪ぃ」
晶は眉間に皺を寄せるが、店長は笑うだけだ。
晶は椅子から立ち上がると、店長の手を取った。
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