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第13話
しかし、告白はしたものの、晶はそれ以上の関係に進むのが怖かった。
水春もセカンドシングルの制作に取り掛かってるし、晶は晶で真洋と水春のプロデュースで、忙しくしているのが幸いだ。
会わなければその話になる事もないし、フラッシュバックに苦しむ事もなくなる。
「水春、俺はこの後真洋と番組の打ち合わせな」
「あ、はい」
あれから二ヶ月、合間は作編曲の時間や、自身のピアノ演奏のCDアルバムの録音と、とにかく隙間が開かないようにスケジュールを埋めていた。
「あの、晶さん」
去り際に水春に呼び止められる。何か言いたげな表情をしているけれど、気付かない振りをした。水春はここの所この表情をするけれど、それも当たり前だ、と分かっていてやっている。
「今日、帰りは何時ですか?」
「今日は多分日付け変わるだろうな」
「……そうですか」
「じゃ、次あるから」
晶はまともに水春の顔を見ずに歩き出した。
(分かってる。これは俺の問題だ)
水春の母親に会った時に言われた言葉が、思い出される。敵も答えも自分の中にある、と。正にそれなのだ。
晶自身が晶の心と向き合わない限り、先へは進めない。
仕事をしていればその事は忘れられる。いっそこのまま忘れたままでいようか、と思ったりもする。
「何うだうだ悩んでんだよ? 晶らしくない」
真洋と番組の打ち合わせが終わった後、真洋にそんな事を言われた。
「……俺らしいってなんだよ」
晶は口を尖らせる。しかし、自覚はあるので勢いはない。
「ホント、仕事はできる癖にそっち方面は弱いのな」
真洋は笑った。
「どう解決するか、色んな手を考えてベストを出すのがお前じゃないのか? 逃げてたら変わんないだろ」
「……逃げてる?」
「どう見ても逃げてるだろ。考える事から」
この過密スケジュール見てみろ、とスマホを見せられる。自分でも見れるしスケジュールは把握しているから、見るまでもないけれど、スケジュール共有システムのデメリットが、まさか自分に降りかかるとは思いもしなかった。
「俺明日から一人で動くわ」
「は? 俺はどうするんだよ」
「ペアの仕事以外も、今は付いてくれてるだろ? 水春に付くか、欲求不満でも解消すれば?」
「なんだよそれ」
真洋はまた笑う。晶は見透かされているようで、居心地が悪かった。
両想いになった先の関係になるのが怖いと言いながら、性欲は普通にあるのだ。前回水春に邪魔されてから、そう言えばしてないなと思う。
「お前が相手してくれるなら良いけど?」
晶は真洋を見ると、真洋は苦笑して、どっちもネコじゃねーか、と言った。
「やりようはあるだろうけど、和将に殺されるから止めとく」
「……だな」
晶も、アイツなら俺まで殺されそうだ、と笑う。ストーカー気質がある弁護士は、ありとあらゆる方法を使いそうで怖い。
その後、真洋と別れた晶は、一人でラジオ番組のゲストの仕事をこなし、宣言通り日付けが変わる頃に帰宅した。
(さすがに疲れたな……)
水春は既に休んでいるのか、部屋の明かりが消えている。さっさと風呂に入って寝るか、と脱衣所に向かった。
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