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第14話(R18)
「ん……、あぁ……」
浴室に入った晶は、どうも身体がスッキリしないと思い、真洋に言われた通り、欲求不満を解消する事にした。
声が漏れるといけないので、シャワーは出しっぱなしにし、床に尻を浮かせて座り、前も後ろも自分の手で慰める。
(くそ……やっぱ自分だと後ろはやりにくい)
満足する刺激が得られなくて、晶は体勢を変える。
付き合った人はいなくても、晶の後ろは十分に開発されており、なんなら後ろだけでもイける程だ。
膝立ちになり、今度は背中側から手を回す。指を増やすと奥まで届くようになり、いい場所に刺激を与えることができた。
「あ、あぁ……っ、気持ち、い……っ」
晶は小声で叫ぶ。腰が勝手に跳ね、思わず背中を反らした。
前も擦り上げるとゾクゾクと身体が震える。久しぶりに触った性器は、とても敏感に刺激を拾った。
晶は唇を噛む。限界が近い、真洋の乱れた姿を想像して、一気に快感の階段を駆け上がる。
「……っ! ……んっ!」
ビクンビクンと、身体が跳ねた。視界と意識が真っ白になり、精液が手と床を汚す。
乱れた呼吸をして、意識が現実に戻ってくると、一気に罪悪感に襲われた。
(ちょっと待て、いま俺……)
どうして、水春ではなく、真洋だったのだろう?
晶は素早く汚れた手と身体を洗う。頭からお湯を浴び、今の自分の思考も流してくれと思う。
もうとうに、真洋は自分の中で過去の人になっていたはずだ、なのにどうして、と後悔した。
そしてすぐにある答えにたどり着く。そこまでして、無意識のところでも水春を避けたいと思っていることに。
(どうしたらいい?)
この状態ではこの先、好きな人とのセックスはおろか、オナニーさえできない。毎回本命とは違う人を思い浮かべて後悔するのは、勘弁だ。
晶は深いため息をついた。お手上げだ、このまま流れに身を任せるか、と頭をガシガシ洗う。
(ホントに、呪いだな……)
二十七年の半分を、母親と別々の人生を過ごして来たけれど、それだけでは呪いは解けないらしい。
(水春の方が、母親と過ごした時間は長いのか……)
それでも、自立して一人で暮らしていけるのは、やはり父親の教育が大きいと思う。彼は母親とは違い、自分の好きなようにさせてくれた上で、どうやったら自立できるかを教えてくれた。
『晶、好きな事をやるだけでは、生きていけないよ。どうやってお金を生み出すか、考えないと』
母親に反抗して塾をサボった日、父親はそう言った。
そして、お金を生み出すためには何が必要か、自身の姿を見せることで学ばせた父親は、救世主だと思う。
あのまま母親の言うことを聞いて、大人になったらと思うと、今でもゾッとする。
(父さん……連絡取ってねぇけど何してんだろ?)
互いにあまり干渉しない性格だからか、前回いつ連絡を取ったかさえ覚えていない。
(ま、こっちに連絡来ないって事は、生きてんだろ)
そう結論付け、晶は浴室を出た。
パジャマを着てキッチンへ飲み物を取りに行くと、水春がお茶を飲んでいた。
晶は一瞬びっくりして足を止めたけれど、再び足を進めて冷蔵庫を開ける。
「起きてたのか」
「はい。……随分長くお風呂に入ってましたね」
水春の言葉にほんの一瞬ドキッとするけれど、平静を装って炭酸水を取り出した。
「…………考え事をな」
ペットボトルを開けて数口飲むと、水春がじっとこちらを見ている事に気付く。
「……晶さん」
呼び掛けられて、目線を合わせずに何だ、と応えた。
「オレの事、避けてませんか?」
「避けてない」
晶は即答する。けれど、それが逆に怪しくなってしまう。
「じゃあ、意識的に仕事で時間を埋めようとしていますよね?」
真洋に指摘された事を、水春にも言われまたドキッとした。
黙った晶に、水春はやっぱり、とため息をつく。そして、彼はコップを洗って水切りかごにおいた。
「晶さん、オレは話してくれるまで待つと言いました。言いにくいのは分かります、オレも大体察しはついてます……だからその重み、半分俺にください。オレは、晶さんを守りたい」
晶はじっと一点を見つめて、水春の話を聞いていた。
こんな事を言われたのは、生まれて初めてだった。水春は晶の過去ごと、好きでいてくれるというのだ。
ぱた、と何かが床に落ちた。
「……っ」
それが涙だと気付くのに数秒かかる。しかしその間にも、これでもかと涙は溢れてきた。
止まらない涙をパジャマの裾で拭っていると、水春が近付いてきて腕をどかされる。
唇に、柔らかいものが触れた。それは晶の薄い唇を軽く吸い、ちゅ、と音がする。
「晶さん……好きです……」
吐息がぶつかるほどの距離で水春に囁かれ、もう一度音を立ててキスをされた。
「……ん」
今度は少し長めのキス。水春が、晶の様子を伺いながらしているのが、よく伝わってくるキスだった。
「水春……俺……」
「うん……無理して話さなくて良いですよ。分かってます」
晶は掴まれていない方の腕を上げ、水春の袖を掴む。今晶にできる、最大限のスキンシップだ。
晶は、水春が望むなら、多少苦しくてもスキンシップを受け入れるつもりだった。しかし、水春はそれ以上の事はしてこない。
晶は水春を見ると、思った以上に優しい目で晶を見ていた。その目が、さらに笑う。
「やっとオレを見てくれた」
嬉しそうな彼の顔に、心臓がドクン、と高鳴り、晶は頬が熱くなるのを感じた。
水春はそんな晶をからかったりせず、晶のサラサラの髪を梳く。
「部屋に行きましょう」
晶は頷いた。
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