14 / 27

第14話(R18)

「ん……、あぁ……」 浴室に入った晶は、どうも身体がスッキリしないと思い、真洋に言われた通り、欲求不満を解消する事にした。 声が漏れるといけないので、シャワーは出しっぱなしにし、床に尻を浮かせて座り、前も後ろも自分の手で慰める。 (くそ……やっぱ自分だと後ろはやりにくい) 満足する刺激が得られなくて、晶は体勢を変える。 付き合った人はいなくても、晶の後ろは十分に開発されており、なんなら後ろだけでもイける程だ。 膝立ちになり、今度は背中側から手を回す。指を増やすと奥まで届くようになり、いい場所に刺激を与えることができた。 「あ、あぁ……っ、気持ち、い……っ」 晶は小声で叫ぶ。腰が勝手に跳ね、思わず背中を反らした。 前も擦り上げるとゾクゾクと身体が震える。久しぶりに触った性器は、とても敏感に刺激を拾った。 晶は唇を噛む。限界が近い、真洋の乱れた姿を想像して、一気に快感の階段を駆け上がる。 「……っ! ……んっ!」 ビクンビクンと、身体が跳ねた。視界と意識が真っ白になり、精液が手と床を汚す。 乱れた呼吸をして、意識が現実に戻ってくると、一気に罪悪感に襲われた。 (ちょっと待て、いま俺……) どうして、水春ではなく、真洋だったのだろう? 晶は素早く汚れた手と身体を洗う。頭からお湯を浴び、今の自分の思考も流してくれと思う。 もうとうに、真洋は自分の中で過去の人になっていたはずだ、なのにどうして、と後悔した。 そしてすぐにある答えにたどり着く。そこまでして、無意識のところでも水春を避けたいと思っていることに。 (どうしたらいい?) この状態ではこの先、好きな人とのセックスはおろか、オナニーさえできない。毎回本命とは違う人を思い浮かべて後悔するのは、勘弁だ。 晶は深いため息をついた。お手上げだ、このまま流れに身を任せるか、と頭をガシガシ洗う。 (ホントに、呪いだな……) 二十七年の半分を、母親と別々の人生を過ごして来たけれど、それだけでは呪いは解けないらしい。 (水春の方が、母親と過ごした時間は長いのか……) それでも、自立して一人で暮らしていけるのは、やはり父親の教育が大きいと思う。彼は母親とは違い、自分の好きなようにさせてくれた上で、どうやったら自立できるかを教えてくれた。 『晶、好きな事をやるだけでは、生きていけないよ。どうやってお金を生み出すか、考えないと』 母親に反抗して塾をサボった日、父親はそう言った。 そして、お金を生み出すためには何が必要か、自身の姿を見せることで学ばせた父親は、救世主だと思う。 あのまま母親の言うことを聞いて、大人になったらと思うと、今でもゾッとする。 (父さん……連絡取ってねぇけど何してんだろ?) 互いにあまり干渉しない性格だからか、前回いつ連絡を取ったかさえ覚えていない。 (ま、こっちに連絡来ないって事は、生きてんだろ) そう結論付け、晶は浴室を出た。 パジャマを着てキッチンへ飲み物を取りに行くと、水春がお茶を飲んでいた。 晶は一瞬びっくりして足を止めたけれど、再び足を進めて冷蔵庫を開ける。 「起きてたのか」 「はい。……随分長くお風呂に入ってましたね」 水春の言葉にほんの一瞬ドキッとするけれど、平静を装って炭酸水を取り出した。 「…………考え事をな」 ペットボトルを開けて数口飲むと、水春がじっとこちらを見ている事に気付く。 「……晶さん」 呼び掛けられて、目線を合わせずに何だ、と応えた。 「オレの事、避けてませんか?」 「避けてない」 晶は即答する。けれど、それが逆に怪しくなってしまう。 「じゃあ、意識的に仕事で時間を埋めようとしていますよね?」 真洋に指摘された事を、水春にも言われまたドキッとした。 黙った晶に、水春はやっぱり、とため息をつく。そして、彼はコップを洗って水切りかごにおいた。 「晶さん、オレは話してくれるまで待つと言いました。言いにくいのは分かります、オレも大体察しはついてます……だからその重み、半分俺にください。オレは、晶さんを守りたい」 晶はじっと一点を見つめて、水春の話を聞いていた。 こんな事を言われたのは、生まれて初めてだった。水春は晶の過去ごと、好きでいてくれるというのだ。 ぱた、と何かが床に落ちた。 「……っ」 それが涙だと気付くのに数秒かかる。しかしその間にも、これでもかと涙は溢れてきた。 止まらない涙をパジャマの裾で拭っていると、水春が近付いてきて腕をどかされる。 唇に、柔らかいものが触れた。それは晶の薄い唇を軽く吸い、ちゅ、と音がする。 「晶さん……好きです……」 吐息がぶつかるほどの距離で水春に囁かれ、もう一度音を立ててキスをされた。 「……ん」 今度は少し長めのキス。水春が、晶の様子を伺いながらしているのが、よく伝わってくるキスだった。 「水春……俺……」 「うん……無理して話さなくて良いですよ。分かってます」 晶は掴まれていない方の腕を上げ、水春の袖を掴む。今晶にできる、最大限のスキンシップだ。 晶は、水春が望むなら、多少苦しくてもスキンシップを受け入れるつもりだった。しかし、水春はそれ以上の事はしてこない。 晶は水春を見ると、思った以上に優しい目で晶を見ていた。その目が、さらに笑う。 「やっとオレを見てくれた」 嬉しそうな彼の顔に、心臓がドクン、と高鳴り、晶は頬が熱くなるのを感じた。 水春はそんな晶をからかったりせず、晶のサラサラの髪を梳く。 「部屋に行きましょう」 晶は頷いた。

ともだちにシェアしよう!