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第21話
「晶さん……晶さん」
どれくらい気を失っていたのだろう、晶は目を開けると、水春が顔を覗き込んでいた。しかしまだ意識はハッキリしていなくて、呼び掛けに反応できない。
水春の顔が近付いた。おでこにキスをされ、何か言っている。
(やっぱ……かっこいいなぁ)
そう思って見ていたら、水春が口元を押さえて視線を逸らした。何で照れてる? 俺、何か言ったか? と思って軽く笑った。
「俺は、晶さんのタイプなんですか?」
「……ん?」
晶の意識が浮上してきた。何の話だ?
「晶さん、まだ意識飛んでます?」
「ふふっ、ホント身体も俺の理想……良い二の腕してんなー」
そう言って、晶は考えていた事がそのまま口に出していたことに気付く。
「……あれ?」
「晶さん……」
なんとも言えない水春の顔を見て、晶は恥ずかしくて顔を両手で隠した。思考がダダ漏れしてたなんて、しかも本人に聞かれたとか恥ずかしすぎる。
「意識が戻ったみたいですね」
「いや、俺はまだ気絶してる!」
顔を覆ったまま、晶は叫んだ。
「あーきーさーん?」
「うぅ……」
水春が顔を覆った手を剥がそうとしてくる。身体もだるいしそっとしておいて欲しい、と言うと、お腹にキスをされた。
「……っ、おま……!」
思わず水春を見ると、彼はニコニコと晶を見ている。
「楽しかったですよ? 欲を言えば、もっと触りたかったですけど」
「お前、本当に男は初めてだったのか?」
いやに翻弄された気がする晶は、何だか腑に落ちない。
「え、だってオレ側からしたら、やる事は同じじゃないですか」
それより晶さんこそ、オレが初めてじゃないですよね、と嫌な所を突いてくる。
「……俺だって男だ。性欲は普通にあるし……」
「確認ですけど、関係を持った人の中に、真洋さんはいませんよね?」
水春から思ってもみない人物の名前が出てきて、晶は呆れた。
「何でそこで真洋が出てくるんだよ……アイツもネコだから関係ない」
「本当に?」
晶は、何故そこまで水春が真洋にこだわるのか、分からなかった。
「何だよ、しつこい。お前アレか? 過去の男たちに嫉妬してるとか言うなよ?」
晶がそう言うと、水春は顔色を変えて晶を見てくる。図星かよめんどくさい、と晶は思った。
「過去の男たちって言いましたね? 複数人いるんですか? 全部教えてください。あと、オレは真洋さんみたいに、一緒に仕事したいと思う相手ではないんですか?」
「ちょっ、ちょっと待て」
一気にまくし立てられて、晶は混乱する。ただでさえ今はだるくて考えたくないのに、と額に手を当てた。
「真洋はセンスも技術も別格だ。それに、仕事なら一緒にしてるだろ」
すると水春は黙った。どうやら腑に落ちないらしい。
「あと、過去の男について聞いてどうする?」
嫉妬してもキリがない、と言うと、水春は分かってます、とため息をついた。
「全部知りたいんです。晶さんの事」
「お前なぁ……」
以前からそのセリフは聞いていたけれど、そういう意味だったとは。
「晶さん、……晶さんは綺麗で可愛くて、仕事もできるしオレの憧れなんです。理想なんです」
「もういい、分かったから喋るな」
晶は重たい腕を上げて水春の口を塞ぐ。しかし、また同じパターンで、水春はその晶の手を取り、指を口に含む。
「ちょ、と……っ?」
晶は手を引いたけれど、今度は離してくれなかった。水春の口の中で舌が晶の指に絡まり、その姿が晶の下半身を舐められた時を連想させ、顔が熱くなる。
「もう一回いいですか? 晶さんの事、全部愛したい」
「……っ、無理!」
指を離した水春は、晶の上にのしかかってくる。力が入らない身体で抵抗する晶は、冗談抜きで無理だから、と叫んだ。
しかし、それも虚しく、水春は晶の乳首を吸ってくる。
「ん! ……やぁっ!」
チカチカと視界が飛かける。何故か分からないけれど涙が込み上げてきて、晶はポロポロと涙を流した。
「……っ、う……っ」
それに気付いた水春は動きを止める。
「あ、泣いちゃった……可愛いなぁ、その顔もっと見たい……」
止めるつもりはないと、言外に言われて睨もうとしたけど、その気力も無かった。
(なんだよ……なんかキャラ違くねぇか?)
大型犬っぽく懐いていた水春のイメージが崩れていく。
「ほんと、もう無理だからぁ……っ」
晶は泣きながら、頼むから止めてくれとお願いした。
情けなく、ひっくひっくとしゃくり上げるくらいに泣けてしまい、晶は両手で涙を拭う。けれど涙は止まらない。
「……分かりました。でも、一つ約束してくれませんか?」
「な、なに……?」
グズグズと、晶は鼻をすすって水春を見る。
「オレの前では、素直になってください。晶さん、今まで通り過ごしていたら、いつか潰れちゃいます」
「……」
音楽以外に楽しみ、見つけましょうと言われ、そんなにヤワじゃないとは言えなかった。
「オレは晶さんの過去を含めて、精神的支えになりたい。そして、そのうち生活の面でも支えられるようになりたい……だから真洋さんを超えたいんです」
水春が真洋にこだわる理由が分かった。水春の真っ直ぐな気持ちと温かさに、また晶は涙が込み上げてくる。
娯楽を一切禁じられた幼少時代。晶の心はその時から動けず止まっている。水春がそれを動かすのを手伝ってくれるというのだ。
「水春……っ、お、俺、すっごくめんどくさいけど良いか?」
「はい。それはもう十分分かってます」
しかし晶には甘え方が分からない。またやきもきさせることになるかもと言うと、それも分かってます、と返ってくる。
水春は軽く笑った。
「ホント、自分の事になると慎重になるんですね」
真洋に聞いたらしい情報だろう、余計な事をと思う前に、額にキスをされた。
「良いですよ。それも含めて晶さんですから」
晶は水春の優しいキスを受け入れた。
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