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第22話

季節は流れて師走も終わりがけの頃。水春は衣装を着て、楽屋で緊張していた。 「おーい、そろそろ本番だぞ」 晶は椅子に座って微動だにしない水春に声を掛けた。 「晶さん……吐きそうです」 「おう、吐いてスッキリするならそうしろ」 晶は水春の手を引いて立ち上がらせる。 「何で晶さん、平気なんですか」 「単に場数の違いだろ。緊張してねぇ訳じゃねーよ」 水春は歩き出す。長い廊下を歩いて舞台袖に着くと、他の出演者も緊張した面持ちで待っていた。 「晶さん……結果知ってるんですよね? いっそ教えてくださいよ」 「教えるわけねーだろバカか」 晶は水春の背中を叩く。 「デビュー一年目にしてレコード大賞ノミネートとか、大したもんじゃないか。胸張って行ってこい」 晶は水春を舞台に送り出す。 舞台上では、ノミネートされたアーティストたちが並んでいる。水春は大したもので、先程まで弱音を吐いていたくせに、堂々としていた。 そして、司会者が進行していく中、受賞したアーティストを発表し、それぞれの曲を生演奏していく。 (結果を知っているとはいえ、俺も結構緊張してきた) 『さあ続いては、レコード大賞、新人賞の発表です』 (水春、頑張れよ) 晶は心の中でエールを送る。 『新人賞は…………ミハルさんです! どうぞ前へお越しください!』 晶の心臓も破裂しそうだった。舞台上の水春は前に出て、深々と頭を下げる。 トロフィーを受け取った水春は、前奏が流れる中、マイクを受け取る。そこまでは緊張していながらも、スムーズにこなしていた。 曲はデビュー曲、『雨上がりの空のように』だ。母親への想いを歌にした曲で賞を獲るとは、何か深い縁を感じる、と晶は思う。 水春はいつも通り呼吸をして、歌い出した。真っ直ぐな歌声は、水春の誠実さが滲み出ている。 すると突然、歌声が途切れた。どうした、と見ると、水春が泣いてしまって歌えなくなっていた。 水春も何とか持ち直そうと、深呼吸をしてマイクを握り直すけれど、涙が込み上げてしまって、上手く歌えない。 晶は水春の背景を思い、それも仕方がない、と込み上げるものがあった。母親を亡くしたからこそできあがった曲で、それで賞を受賞したのだから。 それでも水春は何とか歌いきり、一礼して舞台からはけてくる。 水春は舞台袖で晶を見つけると、真っ直ぐに晶の元へ来て、肩に顔を埋めた。 「晶さん……っ」 晶は男泣きする水春の背中を優しく叩く。 「ありがとうございます……っ、オレ、もっと頑張ります……!」 「おう……期待してるぞ」 晶はそう言うと、自分ももらい泣きしたのか、涙が浮かんだ。

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