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第23話
「新人賞おめでとう」
次の日、事務所で真洋と水春が顔を合わせた時、真洋がそう言って労ってきた。しかし、そういう真洋も、晶と紅白に出るんでしょう、と水春は不満を隠せない様子だ。
「バカ水春、真洋はな……」
「ああ、晶、言わなくていいよそれは」
真洋に止められて、晶は黙った。本人が言うなと言うなら今は止めておこう。
「事務所寄ったのはそれだけ言いたくて。じゃ、俺この後スタジオだから」
人好きのする笑顔を見せて、真洋は事務所を出ていく。
「うわー、余裕でなんかムカつきます」
水春が悔しがっている。晶は先程真洋に止められた言葉を、水春に言った。
「お前は世代的に知らないかもしれないけど、アイツ、大手アイドル事務所にいたんだ。その関係もあって、俺と一緒に売り出さないと、テレビ出演もままならない」
「え?」
「だから、相当悔しがっていると思うぞ」
「……だとしたら、オレ、真洋さんに相当ハンデを貰ってるって事じゃないですか」
そっちか、と晶は呆れた。水春の真洋への対抗心は、晶の想像を超えていた。
「でもその前に」
水春は晶のそばに来る。見上げるほど背が高い水春は、晶を優しい目で見つめた。
「最近ロリィタ服? 着てないですよね? どうしてですか?」
水春は晶の髪を梳く。
晶の服装は相変わらずガーリーではあるものの、過剰装飾なロリィタ服ではない。今頃気付くのかよ、と晶は内心ムカついた。
「髪も下ろしてること多いし……襲いたくなるの、抑えるのに必死なんですけど」
いつか水春が好みだと言った服装に、晶は合わせていたのだ、それも当然だろう。何故晶がそうしたのか、水春は気付いているのだろうか。
「ねぇ晶さん、ここでしていい?」
「やめろ。……まだ帰って編集作業しないと」
晶は更に近付いてきた水春を退ける。しかし、水春も引かない。
「じゃあキスだけ、お願い」
「却下」
晶は事務所のドアを開けようとした。水春がそれを止める。
晶は水春を睨んだ。
「ふざけんな。人来たらどーすんだ」
ここでは絶対そういう事しない、と晶は言うと、再びドアノブを持つ手に力を入れた。
しかし、水春に肩を押され、ドア横のカウンターに押し付けられる。
「だって、あれからしてないじゃないですか……お互い時間が合わなくて、今日のこのタイミングをずっと待ってたのに」
「……っ」
晶は耳に舌を這わされ肩を震わせた。それを言うならこちらも同じなのに、どうして家に帰るまで待てないのか。
「ねぇ晶さん、半年以上お預けって、オレら本当に付き合ってるんですか?」
「ちょ、待て……っ」
水春の手がスカートの上から晶の分身を撫でる。しばらく触られていなかったそこは、敏感に刺激を受け取り、晶は堪らず腰をうねらせた。
「ダメだっ……て、水春……っ」
晶がそう言って、水春の肩を押した時だった。事務所のドアがガチャ、と開く。
「……っ」
晶も水春も直立して固まった。顔を覗かせたのは和将だ。
「……真洋は来なかったかい?」
「さっき一瞬ここにいましたけど……」
水春が答える。晶は見られたんじゃ、と恥ずかしくなって、和将の顔が見られなかった。
和将は遅かったか、とため息をついた。晶は大方、和将の束縛が過ぎて、真洋が逃げ出したのだろう、と予想した。和将は、好きな人にはとことん尽くす性格なので、時々度が過ぎる時がある。
「……ところで」
和将は晶を見る。晶は視線を合わせられない。
「ここでそういう事をするなと言ったのは、どこの誰だったかな? 私達には禁止しておいて、自分は約束を破るのかい?」
「分かってるよ! 今のはコイツに襲われてただけだっ」
「その割には流されそうだったけど?」
「さっさと真洋を追いかけろよストーカーっ」
「だから、あの程度じゃつきまといにはならないって」
しれっと、和将は弁護士らしい事を言って、ドアを閉めた。
晶はすかさず水春を睨む。
「だから、止めろって言っただろっ!」
「や、だって和将さんにそんな事言ってるなんて思わないし……」
とりあえず帰るぞ、と晶は事務所を出た。
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