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第25話

年が明けて、晶と水春は仕事の合間を縫って、ある場所に来ていた。 正月三が日を過ぎたからか、そこは人はあまりおらず、スムーズに目的の所に辿り着く。 「お母さん……やっと来れた」 やって来たのは水春の母親の墓前だ。和将が最後まで世話をしてくれたが、水春自身がなかなかお墓参りに行けず、今日やっと来ることができた。 お墓には、多分和将が定期的に来ているのだろう、新鮮な花が供物と一緒に添えられていた。 何だかんだ言って、水春の世話は焼いてくれる和将。真洋の事が好きなら、水春も大丈夫だろうという読みは当たったらしい。 水春はお墓の掃除をして、お花も入れ替える。晶はその様子をそばで見ていた。 あれだけ嫌っていた母親という概念は、水春の母親によって、少しだけ変わった気がする。全ての母親が、晶の母親のようではない、と思えるようになったのは水春のおかげだろう。 「お母さん、オレ、レコード大賞の新人賞貰ったよ」 水春は墓前でしゃがむと、母親に語りかけた。 皮肉にも、母親が亡くなったから作れた曲で受賞したのだ。水春の複雑な気持ちが垣間見える。 「聞いてもらいたかったなぁ。あ、それと、紹介したい人がいるんだ」 水春は晶を隣に呼ぶ。 「前にも会ってるから覚えてるかな? 晶さんだよ。オレ、今はこの人に支えて貰ってばかりだけど、晶さんを支えられるように頑張る……この人の、恋人として」 晶はそれを聞いて、顔が熱くなった。何故か緊張してきて、微動だにせず地面を見つめる。 「また来るね」 そう言って水春は手を合わせて、一呼吸目を閉じると立ち上がった。 行きましょう、と水春は歩き出す。晶もその後を追った。 『ありがとう』 不意に、女性の声がして振り返る。しかし、見渡しても誰もいなかった。 晶は霊的なものは信じない。けれど、水春の母親の声だと直感的に思った。 「……任せとけ」 晶はその声に応えるように呟く。晶の記憶の中の水春の母親が、笑った気がした。 「何か言いました?」 水春が晶を振り返る。 「ん? 俺からもメッセージをな」 「え? 何て言ったんですか?」 晶は立ち止まった水春を追い越す。 「水春の事は任せとけって言ったんだよ」 晶は真っ直ぐ前を向いて、水春を見ずに言った。それでも水春にはきちんと聞こえたようで、彼は笑った。 「ホントに……男らしいですよね、晶さんは」 「男だからな」 間違いない、と水春は笑う。 晶に追いついた水春は、手を差し出した。 晶は少し迷ったけれど、その手を取る。指を絡めて握ると、水春は「この後の仕事も頑張りましょうね」と楽しそうに言った。 「ああ」 人目に付くまでの間、少しだけ。堂々と恋人同士らしい振る舞いをしてもいいか、と晶は水春の腕に擦り寄った。

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