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第3話◆いざ、煌輝学園へ!
始発電車と新幹線とバスを乗り継ぎ、ついにブラックムーン の本拠地である煌輝 学園へやって来た。
ここは広大な敷地に城のような校舎、高級ホテルのような寮、リゾート地のようなショッピングモールを完備した日本で一番若者に金を掛けている僻地だ。来るのに本当に苦労し、そして……疲れた。
というのもここまでの長い道中、アイドルみたいな顔と髪色をした超絶美男子を引き連れる俺は嫉妬や蔑みといった、あらゆるネガティブな視線に晒されまくったのだ。閏 が金持ち有名高校の制服しか持ってきておらず、それを着こなしていたのも災いした。
俺なんか閏の美貌にかき消されて悪目立ちすらできないように思ったのだが、閏は公共の場になっても俺との距離感をバグらせっぱなしで、閏に目を惹かれた人の大半はセットで「なんだ隣のアイツは?」という顔をした。
俺はそれがずっと気になっていたが、でも閏に注意することはできなかった。優越感や自慢ではない。仲の良い友達がいるという感覚が久しぶりで、恥ずかしい以上にうれしかったのだ。
俺はスマホに新しく登録された『諸星 閏』という名前を見て、弛みそうになる口元を引き結んだ。よし、これからしばらく一人になるけど頑張ろう。
先程閏は『じゃあ那由多 、僕はもう行くね。本当に気をつけてね。絶対絶対、また会おうねっ!』と、涙の膜が張った目で大袈裟な台詞を残し、名残惜しそうに校舎の中へと消えて行った。新学期と同時の編入とはいえ、幼稚舎から大学まで一貫の煌輝学園では、俺のようなお受験以外での転入生は相当異例らしい。
だからかは知らないが、なんと新学期なんて忙しい日にわざわざ生徒会から一名、俺のためにお迎えが付くという。そう、生徒会だ。俺はいきなりブラックムーンの一員と接触を果たすのである。
――“那由多。まずはこれインストールして”。
俺は新幹線の中で閏と交わした言葉を思い出し、そのままスマホをタップした。秘密のワードを入力することでインストールできる、魔法少年 のための「マジカルアプリ」だ。
このマジカルアプリは魔法少年としての活動記録を残せるツールで、自身の健康状態やステータスの確認、敵の最新の情勢とプロフィール表示、そして可能な限りでの位置情報の取得など、現代を生きる魔法少年には必須の便利アプリだ。
開発元は業界最大手のシャイニス株式会社の地球支社。閏もここの御曹司という名目で学園に通っている。
俺は【ブラックムーン】の項目をタップした。
惑星ブラックムーン――略称ブラム――は、その名の通り”黒い月”と称される、宇宙空間では特別な道具を使わない限り可視化できないという謎多き小さな惑星だ。詳細は不明だが、最近よからぬ悪行と共に周辺惑星により発見された新興星力だ。
ブラムはブラックマターという大気物質に覆われていて、そのために外側からは見えないようになっているらしい。そして彼らが使う黒魔法も、このブラックマターを媒介ないしはエネルギー源として成り立っているオリジナルな力だそうだ。
そんな奴らの地球潜伏メンバーである、煌輝学園生徒会執行部の五人。たった五人、されど五人である。俺はさらに【メンバー】の項目へと進む。彼らの簡単な情報が載っているのだ。
プロファイル一、生徒会長の黒夜鷹宵闇 、三年。不遜で横柄で俺様な性格らしいが、そのカリスマ性と頭の回転の良さ、勘の鋭さは一級品。ただ、俺様な態度と裏腹に自分のことは多く語らず、学園でもトップの人気を誇る有名人であると同時に、謎も多い人物だそうだ。
プロファイル二、副会長の碧川清流 、三年。美人で人当たりが良くまるで王子様のような所作と風貌だが、実のところ打算的で損得勘定でしか人間関係を築かない腹黒い人間だそうだ。誰にでも敬語を崩さないところも、ガードの堅さが伺えるとのこと。
プロファイル三、会計の美波七海 、三年。副会長とは打って変わり、オープンな性格で裏表のない人物らしい。明るく愉しいことが大好きで、交友関係も広い。生徒会メンバーの中では一番近づきやすいが、口が上手く一番嘘が通用しないので要注意とのこと。
プロファイル四と五、書記の観月十五 、十六 兄弟。二年の双子の生徒だ。見た目のそっくりな一卵性双生児らしいが性格は正反対で、兄の十五は剣道部の主将、スポーツ特待生だそうだ。武道家らしく寡黙で冷静な性格だが、逆に一度キレると一番何をしでかすか分からないらしい。また、弟の十六はピアノ界の鬼才と呼ばれる芸術科の特待生。芸術家らしく――武道家に続いてこちらも偏見と思うのだが――変わった捉えどころのない性格で、キレると何をしでかすか分からないらしい。……嘘つけ、性格もそっくりだろ!
ツッコミを入れたところでブラムのプロフィールのおさらいは終了した。閏が一年間で収集した情報を元に簡潔に記したものらしいが、改めて見ても一筋縄ではいかない人間の集まりだということが見て取れる。
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