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第3話◆いざ、煌輝学園へ! 後編

 正直、この中から誰が迎えに来ても秒で正体がバレる気しかしない。だって俺がこんなふうにプロファイルとして紹介されるなら『神風(かみかぜ)那由多、ひ弱で口下手で根暗な性格。口を開くとボロ(知性のなさ、世渡りの下手さ、コミュニケーション能力の低さ)が出るので大体無口。その癖顔に出るので嘘が吐けない。友達がいない。打たれ弱い。前髪が長い。陰キャ。魔法少年とは思えない。』とか、そういう悪口みたいな文章にしかならない自信がある。  俺が勝手に根暗タイムに突入していると、コツコツという上品な靴音が聞こえてきた。俺はパッと顔を上げる。遠くから煌輝学園の制服を着た、スラリとした人物がやってくるのが見える。ただならぬオーラに、俺は思わずゴクリと息を呑んだ。 「君が神風那由多さんですか?」  綺麗にまとめたハニーブロンドの長髪と、丁寧口調。間違いない。 「はじめまして。生徒会副会長、三年Sクラスの碧川清流です」  ――腹黒王子様と呼ばれる副会長だっだ。  やばい……想定以上にすっごい美人さんだ。頬が不可抗力で赤くなる。俺はにっこりとした碧川副会長の笑顔に、敵であることも忘れてつい見惚れてしまった。が、すぐに我に返って慌てて腰を折る。 「ど、どうもはじめましてっ。神風那由多です。新学期なんて大変お忙しい日にわざわざ――」 「はい、仰る通りすごく忙しくて時間がないんです。ぼそぼそごちゃごちゃ言わなくていいので、さっさと向かいましょう」 「え?」  碧川副会長は美しい笑顔のまま、くるりと背を向け歩き出した。 「さて、必要な説明事項は移動しながらすべてお伝えしますので黙って着いてきてくださいね。まだ道を覚える必要はありませんから、とにかく私の説明を聞くことに集中してください。質問があれば最後にまとめてお聞きしますが、正直申し上げますと質問事項が出るような説明をするつもりはないんです。ですから、ご質問にはお答えできない可能性が非常に高いので、よろしくお願いしますね」 「はい」 「うふふ、従順な(理解の早い)方でうれしいです」  おいおい、腹の内だけじゃなくて見えてる部分も黒いじゃん。全然人当たり良くないじゃん。マジカルアプリどうなってんの? 既に俺心折れそう……笑顔怖い……!  テキパキと上品な靴音を鳴らして歩く碧川副会長に俺は必死に着いて行った。脚の長さの違いとペースの速さに息切れしそうだが、話もちゃんと聞いていないと怒られそうなので俺は耳を集中させた。とはいえ、自分で言うだけあり碧川副会長の説明は端的で分かりやすく、自然と耳が向いた。怖いけど。 「いいですか。私からはあなたの本日の行動予定しか申し上げません。学内施設のことや成績のつけ方など、寮監や先生から申し上げるべきことについては言及いたしませんのでご自身でお聞きになってください。  さて、本日これから始業式が行われ、通常の生徒は直接アリーナに向かいますが、あなたは編入生なのでまずは先生にお会いします。私があなたとご一緒するのもこの職員室までです。神風さんは二年Sクラス、担任は嵐士(あらし)先生ですので、着いたら彼を呼び指示に従ってください。恐らく嵐士先生から何かお話があったあと、始業式に参加されるかと。  いいですか、本校は始業式だろうと何だろうと登校日には授業があります。あなたは本校の校風、クラス、同室の寮生に早く慣れ……いえ、慣れるのと同時進行でしっかり勉学に励んでください」 「は、はい……」 「その返事」  コツン! と足を止めた碧川副会長は、一歩遅れて歩く俺を毅然な態度で振り返った。 「とても本校に編入してきたSクラスの人間とは思えません。あなた、何か隠していませんか?」 「えっ――」  言うや否や、碧川副会長は一歩踏み込んできたかと思うと俺の顎に手を掛けた。一気に迫る副会長の美顔。俺を品定めするような、それでいて美しく細められた瞳に俺は思わず息を止めてしまう。背中に冷汗が伝った。俺の、何を見ている――?  俺はカラカラに乾いた喉で「何も……隠していません……」と声を絞り出した。数刻の沈黙ののち、ふっと吐息を漏らした碧川副会長はやわらかく微笑んだ。顎から指が離れる。俺は止まっていた時間が流れ出したかのように、遅れて心臓をバクバクと鳴らした。何なんだ? 何か勘づかれたか? 「そうですか。なら、いいんです。すみません、突然お顔に触れたりして」 「い、いえ……」  くそ、翻弄されるな。俺だって魔法少年として情報を収集しなきゃならないんだ。それに生徒会の連中(ブラム)に近付くチャンスなんてなかなかないはずだ。よく副会長(相手)を観察しなければ……。 「失礼ですが、神風さんはあまりにご友人が出来なさそうなので最後にひとつ、忠告して差し上げますね」  本当に失礼なことを堂々と言われたが、俺は「忠告」という二文字に思わず碧川副会長に目を向けた。駄目だ、怖い。何を言われるのだろう。何か仕掛けられるのだろうか。俺はまだ、ブラムの黒魔法がどんなものなのか知らない――。  俺は西欧の宮殿のような外に面した廊下で、うららかな春の陽気とは真逆の空気を早くも感じているのであった。

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