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第2話◆ウルウと閏 後編

「あのね、去年成人になって……あ、獣人族は十五歳が成人なんだけど。とにかくね、十五歳になったら那由多に会いに行こうってずっと思ってたんだよ。これは本当だよ。  ……僕はシャイニスの皇子だったし那由多のパートナーとしての功績も認められたから、復興後の政治体制を整えたり何なり、とにかくめちゃくちゃ忙しくて全然自由がきかなかったんだ。だから、成人になった時に父さんに地球に行く許可をもらおうって決めてたの。僕はその決意だけを胸に、シャイニスの皇族としての職務を一生懸命やってきたよ。正直、那由多にまた会うためって思ったら、なんでも真面目に取り組めたし、職務が大変で忙しいとも思わなかった。  だけどいざ成人になって、父さんにも許可をもらって念願の地球に来てみたら――異様に邪悪な気で満ちてる場所の匂いを感じて、驚いたよ。怖くなってすぐに家に報せたら、このままお前は煌輝学園に潜入しろって言われちゃったんだ。どうやって調べたのかまでは分からなかったけど、とにかくその邪悪な気の発生源が煌輝学園だったんだ。  あのね、シャイニスは那由多からマジカルスターの加護を与えてもらったあの日、那由多に……また地球に何かあったら真っ先に自分たちが護るんだっていう強い責務を自分たちに科したんだ。だからね、地球を守るため……那由多を護るためなら、僕の意志なんて二の次でいいんだよ」 「……」  俺は複雑な気持ちになって黙り込んだ。ウルウの「会いたい」と思ってくれていた気持ちが強く伝わってきたうれしさと、ウルウが自分の意志は二の次でいいと言ったことへの悲しさ。それから、俺が復興させたことでシャイニスと地球に微妙な力関係を生んでいたショックと、自分がこれまでのウルウの苦労も知らずにわがままを思っていたうしろめたさ。そんなのが綯交ぜ(ないまぜ)になって、何を言ったらいいのか分からなくなってしまう。 「ウルウ――」 「まあでもとにかく、今はこうやって那由多と(おんな)じ学校に通えることになって僕はすごくうれしいんだ! 那由多、また一緒に頑張ろうね!」 「えっ?」  いや、今ウルウは何と言った? 同じ学校……だと?  俺はついさっきまでの微妙な気持ちを霧散させるほどの、現実という脅威にさらされた。 「よし! 粗方のことは話したし、記念すべき煌輝学園への転入に備えて今日はもう寝よう。明日は始発に乗るから、早起きだよ那由多っ」  「張り切ってこー!」と勝手に盛り上がっているウルウの横で、俺は今度は別の意味で何から言ったらいいのか分からなくなってしまう。  ちょっと待ってくれ……俺、煌輝学園に転校するの? しかも明日?! 聞いてないぞ!!  ……魔法少年は大変なのだ。 * * * 「那由多、起きて」 「う……んん、うるう……?」 「うん、ウルウだよ。おはよう那由多」  肩を優しく叩かれてゆっくりと目を開けると、そこには朝から胸焼けしそうなほどの、ものすごい美顔が迫っていた。……普通に恥ずかしくなる。  俺は唸りながら枕に顔を押し付けると、まだ眠たいフリをして誤魔化した。うん、やっぱり人型のウルウはまだ変な感じがするし、絶世の美男子っぷりにも慣れない。というか……。 「……なんで同じベッドで寝てるんだ」 「やっぱり昔みたいに一緒に寝たくなっちゃったんだもの。今日くらいいいでしょ?」  そう言ったウルウのしっぽは、ご機嫌そうにぶんぶんと左右に揺れていた。顔を伏せっていても足にバシバシ当たるからすぐに分かった。俺はこそばゆくなって、さらに枕に顔を埋める。ちくしょう、布団わざわざもう一枚敷いたのに。 「ほら! 早くしないと朝のホームルームに間に合わなくなっちゃうよ那由多。起きて!」 「……ウルウ」 「うん?」 「今の、懐かしかった」  もぞりと顔を上げた俺は、ウルウを下から見上げてこっそりと言う。 「……おはよう」  きょとんとしたウルウは、すぐに満面の笑みを浮かべてくれる。 「うん、おはよう!」  そうだ。小学生の時も、朝の弱い俺をよくウルウが起こしてくれていた。あの時はウルウもすごく小さくて可愛らしかったから、ずっと俺の家でぬいぐるみのフリをして暮らしていたっけ。  確かに大変なこともたくさんあって、怪我をしたり辛い思いをしたり怖いことも次々起きたけど、それでも俺の魔法少年としてのウルウと過ごした一年間は楽しくて、かけがえのない思い出なのだ。こうしてまたウルウと再会したことで、朧げだった記憶が鮮やかに蘇ってくる。  これからどんなふうに活動をしていくのかまったく見えてこないけど、それでもまた、ウルウと一緒に頑張るのも悪くないなと思った。  俺はベッドから起き上がって、ウルウのそばに立った。 「ウルウ。ウルウは、学園ではなんて名前で過ごしてるんだ?」 「あ、そうだね。那由多、人間の僕の名前は諸星閏(もろぼしうるう)。名前は一緒だから、呼び方は変えないでね」 「うん、分かった。……よろしくな、諸星閏くん」 「はい。改めてよろしくね、神風(かみかぜ)那由多くん」  俺たちは人間の姿で握手をして、思わず笑い合った。

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