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第1話 ◆ 魔法少年、再び⑤

 俺はぎょっとして、押し倒された姿勢のままウルウを見つめた。ウルウの目からこぼれる涙が、俺の白いTシャツにボタボタと染みを作っていく。 「な、なんでって……」  言えない。――自分が同性愛者だと分かって、とても生きづらくて苦しい、だなんて。  俺が目を伏せると、ウルウは牙をしまって大人しくなった。俺の脚の上に座って、項垂れる。 「那由多……。君が何に悩んでいるのか僕には分からない。けど、自信を持ってほしい。僕は那由多のこと、大好きだよ?  だって那由多はね、シャイニス(僕の故郷)と、そして僕自身を救ってくれたんだ。命の恩人なんだ。那由多はすごいんだよ。誰にも負けない、綺麗な星の力を持ってるんだ。そんな那由多の綺麗な心に僕は救われたんだよ。だから那由多、僕が大好きな那由多を傷付けないでよ。信じてあげてよ。  那由多、僕がサポートするから。僕も一緒に戦うから。だから、僕に大好きな那由多が棲む地球を守らせて。那由多を守らせて。お願い。僕、こうやって那由多にもう一度会えること、すごくすごく楽しみにしてたんだ。そんな那由多が悲しい気持ちでいるのは、嫌だよ」  何年も前だけど、たったの1年だけど。それでもウルウと一緒に濃い時間を過ごした俺には分かる。これは自分の利益のための嘘なんかではなく、ウルウの本心なのだと。 「ウルウ……分かったよ」 「那由多!」  今度、ウルウは抱き着いてきた。獣なので“抱き着いてきた“という表現は間違っているかもしれないけど、ともかく体重を思いきりぎゅうと掛けられて、俺はまさしく潰れた声を出した。 「ぐえっ。ウ、ウルウ! 苦しいっ」 「あはは、ごめんね那由多。でも僕、本当にうれしくて」  ウルウは体を離して、俺をとても優しい瞳で見つめた。澄み渡った朝焼けみたいな、桃色とも青色とも言い表せられない、葵色の瞳。ウルウの綺麗な水色の毛は、蛍光灯の灯りに縁どられてキラキラと輝いている。 「那由多。くじけそうになっても僕が那由多を救うから。全力でサポートするから。だから那由多――ふたりで君と僕の地球を守ろう」  ウルウはそう言ったけど。俺にはふたりで一緒に生きよう、って聞こえた。  胸の奥にじんわりと温かいものが滲んで、ふいに目の奥がツンとした。  こうして俺は再び、魔法少年として地球を救うべくウルウと活動を始めたのであった。

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