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 飄々とした態度で言い切ったツカサは、そのまま歩き始めてしまう。 『カナちゃんの部屋はこっち。俺が先を歩いて案内するから、ついて来て?』  言葉の意味を理解する間も無く、カナタは慌ててツカサの背を追った。  ……それから、すぐ。  ツカサは奥へ進んだ場所にある部屋の前で、ピタリと立ち止まる。 『ここが、カナちゃんの部屋。……で、俺の部屋がそっちね? マスターの部屋は俺たちとは反対方向にあるから、荷解きが終わったら案内するよ』 『ありがとう、ございます』  第一印象は、どこか底冷えするような恐ろしさだった。  けれど、それは気にしすぎだったのかもしれない。  そう、カナタは自分の考えを否定し始める。  扉を開けた部屋の中には、必要最低限の物だけが並んでいた。 『ベッドとかはあるけど、足りない物は随時増やしていこっか。……カナちゃんの実家って、隣町だっけ?』 『あっ、えっと、は、はいっ。だから、あのっ、あんまりこの辺り、詳しくなくて……っ』  委縮するカナタを見て、ツカサはニコリと笑う。 『じゃあ、今度予定が合う日に俺がカナちゃんを案内するよ』 『でも、マスターさんが近いうちに案内をしてくれるって──』  車の中で、似たような雑談をマスターともした。  カナタが口を挟むと、即座にツカサが言葉を差し込む。 『そうなんだ。だけど、そんなこと【俺たち】には関係ないよ。だから、案内をマスターに頼んじゃダメ』  部屋の中を歩くツカサはカナタを振り返らずに、言葉を付け足す。 『カナちゃんは、俺とデートするんだから』 『……デー、ト……っ?』  妙に、引っ掛かるところはある。  例えば……どうして、自分のことを『カナちゃん』と呼ぶのか。  どうして、ツカサがやたらとフレンドリーなのかも。  カナタには、原因や理由が分からない。  けれど、それが【ツカサ・ホムラ】という男なのかもしれない、と。  そう思うと、カナタはなにも言えなかった。  箱を置いたツカサは、笑みを浮かべてカナタを振り返る。  そして。 『じゃあ、片付けを始めちゃおっか。荷解き、手伝うよ』  あろうことか、ツカサは……。  ──カナタが最も【触れられたくない箱】に、手を掛けようとした。 『──だめッ!』  ツカサという男について、疑問は尽きない。  しかしカナタは、ツカサの言動に疑問を抱いている場合ではなくなったのだ。  カナタはすぐさま、カナタらしくないほどの大声を上げる。  そのまま、カナタは慌ててツカサの腕を掴んだ。  突然腕を掴まれたことにより、箱に貼られたガムテープが『ビリッ』という音を立てて、斜めに剥がれる。  すぐにツカサは、腕を掴むカナタのことを見上げた。 『……ビックリ、した。カナちゃんって、そんなに大きな声が出せるんだね』  ツカサはどこか驚いたような表情を浮かべてはいるが、箱に手を添えたままだ。  ──そのままでは、困る。  ──非常に、困るのだ。  カナタはツカサの手を箱から遠ざけるために、声を荒げた。 『片付けは自分でします! 自分でできます! だから! ……だから、箱から手を、放してください……っ』  大きかったカナタの声が、後半にかけて少しずつ小さくなっていく。 『お願いですから……箱の中は、見ないでください……っ』  ──さすがに、オーバーな反応をしてしまった。  そう、カナタは肝を冷やしたのだ。

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