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それは、カナタが越してきてから一週間後の夜。
ツカサは毎晩、カナタの部屋にやって来ては他愛もない雑談を振ってくれた。
そのことに、カナタは口にせずとも感謝をしていたつもりだ。
その日も、ツカサは変わらずカナタの部屋を訪問。
そして、まだ家具の揃っていないカナタの部屋で、唯一腰を下ろせる場所──ベッドに、二人は並んで腰かけていた。
そして、ツカサは口にしたのだ。
『──そう言えば、なんでカナちゃんは俺の前でスカートを穿いてくれないの?』
──カナタの【秘密】を。
カナタは思わず、隣に並んで座るツカサを、勢い良く振り返った。
素知らぬふりをする。……といった高等芸当は、カナタには到底不可能。
『……なんで、そのことを……っ?』
如実に、動揺を現してしまったのだから。
カナタはただの一度も、女物の服をツカサに見せたことはなかった。そして当然だが、マスターにもだ。
クローゼットの奥にしまい込み、一人で時々眺めるだけ。
そういった楽しみ方を、この一週間はしていたのだから。
至極当然なカナタの戸惑いに、なぜかツカサは……。
『──どうしてそんなに驚いているの?』
──カナタ以上に、不思議そうな様子だった。
ツカサは眉を寄せながら、そっと小首を傾げる。
『俺、カナちゃんのことならなんでも知っているつもりだよ? だからさ、別に俺が【カナちゃんは女の子の服が好き】ってことを知っていても、おかしくなくない?』
当然の疑問だ、と。
ツカサはそう、カナタに語っているようだった。
『あの日──カナちゃんが引っ越してきた日にさ? カナちゃん、俺の握手に応じてくれたでしょ? あの時からずっと、俺にはカナちゃんだけだよ。それなのにカナちゃんの服の好みも知らないとか、さすがにそれは笑えなくない?』
ツカサはまるで、当然のように言いのけている。
だが、カナタには理解ができない。
──握手に応じた時から、なんだと言いたいのか。
──ツカサにとってのカナタが、どういう存在なのかも。
ツカサの言葉が、カナタにはどこか異国の言葉のように思えた。
けれどツカサは、カナタの理解も待たずに言葉を続ける。
『カナちゃんさ、俺が荷解き手伝おうとしたのを断ったでしょ? あれって、スカートとかを見られたくなかったからだよね?』
『いつから、そのこと……っ』
『う~ん……初日、かな? カナちゃんの部屋の……ホラ、あそこ。あそこのクローゼットの奥にスカートとかワンピースが入っているってこと、俺は前から知っていたし──』
『勝手に部屋に入ったんですか……っ!』
カナタは困惑し、憤る。
だが、どうしてカナタからそんな反応をされているのか。
『そうだけど、なにかおかしい?』
やはり、ツカサは心底不思議そうだ。
『俺は、カナちゃんが勝手に俺の部屋に入っても気にしないよ? むしろ、毎日待っているつもりなんだけどな~……。まぁ、カナちゃんが全然会いに来てくれないから、こうして俺が毎日会いに来ちゃってるワケなんだけどさ』
──おかしい。
──異常だ。
初対面時とはまた違う恐ろしさが、カナタの胸を黒く塗り潰した。
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