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 ツカサは確かに、顔がいい。  だが仮に、そうでなかったとしても。  きっとカナタは、胸を高鳴らせてしまっただろう。  なぜならカナタは、誰かに趣味を肯定されたのが初めてだったから。  ──ツカサからの言葉は、満更でもない。  そう思ってしまうのは、当然だろう。 『お願い、カナちゃん。カナちゃんがもっと可愛くなった姿を、他の誰でもない俺だけに見せて?』  しかも、こうして真っ直ぐと頼まれているのだ。  思わずカナタは、小さく。  ──コクリと、頷いた。  パァッと、ツカサは花が咲いたかのような笑みを浮かべる。  その笑顔があまりにも眩しく見えて、カナタは思わず顔を背けた。 『でも、あの……似合わないかも、しれないし。……見ていて、気持ち悪いかもしれないですよ……っ?』 『カナちゃんに限ってそれはない! 絶対に可愛いよ!』 『うぅ……っ』  真っ直ぐすぎる言葉に、カナタは再度、赤面する。  頷いてしまった以上、カナタはスカートを穿かなくてはいけない。  これだけ期待させてしまっているのだから、今すぐだ。 『じゃあ、あの……着替えます、ので。一回、部屋から出てもらってもいいですか?』  ツカサならばきっと、一言返事で頷いてくれるだろう。  カナタはそう、確信していた。  ──しかし。 『──なんで? 俺の前で着替えてよ』  ツカサは、カナタからの提案を拒否した。  先ほどと同じく、ツカサが嘘や冗談を言っているとは思えない。  その目は、冗談ではなく本気。 『それは、ちょっと……恥ずかしい、です……っ』  カナタは女装姿を他者に晒すなんてこと、初めてだ。  ましてや、相手は見目麗しいツカサだ。  いくらツカサが同性であろうと、貧相な自分の体を見られるのは、女装姿を見られることと同じくらい恥ずかしかった。  けれど依然として、ツカサは小首を傾げている。 『そういうものなの? 変なカナちゃん。……まっ、恥ずかしがり屋なところも可愛いけどさ』  ──つまり、ツカサは分かってくれたのか。  カナタはそう、期待した。  しかし、ツカサはどこまでいってもカナタの想定通りには動いてはくれない。 『──じゃあ、俺が脱いだら? そうしたら、カナちゃんも俺に全部を見せてくれる?』  そう言うや否や。 『カナちゃんは恥ずかしがり屋なだけじゃなくて、意外と欲しがりさんなんだね? でも、カナちゃんが俺にそうしてほしいなら……俺はいくらでも脱ぐよ?』  ──ツカサはすぐさま、上着を脱ぎ捨てた。  バサリと、ツカサが今の今まで纏っていた服が床へ落ちる。  カナタの視界には、ツカサの上裸が飛び込んできた。 『なっ、なんで……っ』  どうしてそこまでして、目の前で着替えさせたいのか。  男の裸を見てなにが楽しいのかも、カナタには理解できない。  それでもツカサは、あっけらかんとした態度で答える。 『だって俺、カナちゃんの裸見たいもん』  服を脱いだ際に乱れた髪を手で撫でつけながら、ツカサは笑った。  そのまま、ツカサは笑みを浮かべて言葉を並べる。 『──それに俺、さっきも言ったじゃん? カナちゃんは【俺の】カナちゃんだって。俺の握手に応じてくれたあの日から、俺にはカナちゃんだけだって。つまり、俺がこれだけカナちゃんを大切に想っているんだから、カナちゃんだって俺を特別だと思ってくれているでしょう? 大なり小なり差はあっても、お互いにとって特別なら、着替えくらい見られたって別にいいよね? むしろ逆に、裸を見たことないなんておかしくない?』  矢継ぎ早に、ツカサはカナタに言葉を浴びせてきた。  当然、カナタの理解を待たずに。  ……むしろ。  カナタの理解なんて、最初から求めていないかのように。

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