13 / 289

1 : 9

 訊ねているのに、返事は求めていない。  求めていたとしても、それは【肯定】と【同意】だけ。  カナタはそれでも、懸命に言葉を探した。  この異常な男を相手に、自分だけは真っ当でいなくてはならないのだから。  ──そうでなくては、自分がどうなってしまうのかが分からない。 『見せてよ、カナちゃん。俺まだ、カナちゃんの裸見てない。……それともカナちゃんは、俺にだけ肌を晒せって言いたいの? もしかして意外と積極的なのかな、カナちゃんって』 『そんな、つもりじゃ……っ』 『大丈夫だよ、カナちゃん。裸になったって、カナちゃんは可愛いから』  カナタはいつも、隠れて女装をしていた。  家族にすら、自分の好みや趣味を教えなかったのだ。  それは、否定を恐れたから。  辛辣な言葉を浴びせられると、恐怖したからだ。  しかし、ツカサはどうだろう?  言動はどうあれ、カナタのことを肯定している。  むしろ、カナタが望む以上の反応を与えてくれた。  そして、なにより……。  ──ずっと、誰かに『可愛い』と言われたかったのだと。  カナタはようやく、気付いたのだ。  言葉を失っていると、ツカサがそっとカナタの肩を押した。  その事実に気付いた瞬間。 『ツカ、サ……さん……っ?』  ──カナタはツカサの手によって、ベッドへと押し倒されていた。  肩を押していたはずの手が、カナタの服へと差し込まれる。 『なに、を……っ』  カナタが慌てたところで、ツカサの動きが止まるはずはない。  ツカサの手はそのまま、カナタの素肌を撫で始めたのだから。 『スベスベしていて、気持ちいい。……ヤッパリ、なにも恥ずかしがることなんてないよ』 『やっ、やだ、なんで──あ、っ!』 『服、上げるよ?』  宣言通り、ツカサはカナタが着ていた服を捲り上げる。  天井から注ぐ明かりに照らされながら、カナタの上半身はツカサの視界に捉えられた。 『カナちゃん、首まで赤くなっているね。可愛いなぁ、ホントに』 『そんなに、見ないでください……っ』 『俺はカナちゃんになら見られたっていいよ? だから、俺にも見せてよ。……俺の裸、いっぱい見てもいいからさ』  反射的に、カナタはツカサの体を見る。  カナタとは違い、男らしく逞しい体。  服を着ていると詳しくは分からなかったが、ツカサは鍛えているのだろうか。こうして見ると、筋肉の形がしっかりと分かってしまった。 『……っ』  思わず、カナタはツカサの体に見惚れる。  すると、ツカサがくすりと可笑しそうに笑った。 『ホラ。カナちゃんだって、俺の裸じっくり見てるじゃん? 自分が見られるのは嫌がったくせに、人のは見たいなんて……カナちゃんはエッチだね』 『ちっ、ちが──』 『モチロン、責めているワケじゃないよ? そんなカナちゃんも可愛いねって話だからさ』  そう言いながら、ツカサは笑みを浮かべる。  そして、突然。 『う、そ……っ! だめっ、待ってください、ツカサさん……っ!』  ──ツカサの手が、カナタの下半身へと伸びた。

ともだちにシェアしよう!