17 / 289
1 : 13 *
今まで体験したことがない、圧迫感。
後孔に突き挿れられる異物感に、カナタは息を呑んだ。
『い、やだ……っ! くる、し……っ』
涙をボロボロと溢れさせるカナタを見て、ツカサは切なそうに眉を八の字にする。
『お腹、苦しい? 痛くはない?』
──どうして、ツカサは狂人なのか。
歪んだ優しさを向けられたカナタは、涙を流したまま首を横に振る。
『痛くは、ない、です……けど、っ』
『良かった。……じゃあ、ゆっくりシようね? 徐々に慣れると思うから、ちょっとだけ我慢して?』
言葉通り、ツカサはゆっくりと腰を落としていく。
異物によって内側が押し広げられていく感覚は、未知のもの。
──嫌だ、怖い、と。
──やめてほしいと思っても、口にはできない。
カナタはシーツを握り締めて、耐えるように息を止めた。
けれど、カナタの姿勢にツカサは目敏く気付く。
『カナちゃん、息を止めちゃダメ。唇も、噛んじゃダメだよ』
そう言い、ツカサは自分の指をカナタの口へ差し込んだ。
『俺の指なら噛んでいいから、ね?』
その声も、手つきも、眼差しも……。
先ほど脅してきた男とは、まるで別人。
色々なことが、あまりにも唐突に舞い込んだ。平凡なカナタの頭では、処理しきれないほどに。
カナタはゆっくりと、考えることを放棄していく。
言われるがまま、カナタは呼吸をした。
強い違和感を与えられると、素直にツカサの指を噛んだ。
『ふぁ、ぁ……ぃ、う……っ』
『ん……っ。奥まで入ったよ、カナちゃん。……カナちゃんのナカ、凄く気持ちいい……っ』
指を引き抜き、ツカサは両腕でカナタの体を抱き締めた。
『可愛いよ、カナちゃん。カナちゃんが世界で一番可愛い……。カナちゃんが可愛すぎて、俺、どうにかなっちゃいそう……っ』
思考放棄をしたカナタは、与えられる言葉だけを受け止める。
──可愛い。
そう言われると、カナタは全てどうでもよく思えてきた。
『動くね、カナちゃん。……一緒に、気持ち良くなろう? 俺、カナちゃんのこと気持ち良くできるように頑張るから』
『ん、ふぁ……っ』
ゆっくりと、内側を擦られる感覚。
カナタの体を気遣ってか、初めのうちは優しい腰遣い。
けれど、カナタの声が甘い色を含み始めると……その動きは、次第に激しさを増していく。
『やだ、やっ、あっ! 奥、そんなに……いっぱい、突かないでぇ……ん、ぁあ、っ!』
『お尻きゅんきゅんさせて、カナちゃんホンット可愛い……っ! カナちゃん、俺のこと好き? 俺のこと、彼氏って思ってくれている?』
確かにカナタは、ツカサに対して胸を高鳴らせた。
けれどそれは、決して好意ではない。
今すぐどちらかに分類するのならば、カナタにとってツカサはきっと、ツカサが望まない返答の側に分けられる。
──だが、素直にそう答えたとしたら?
『答えて、カナちゃん。カナちゃんのその可愛い声で、俺のことをどう思っているか、正直に教えて?』
ツカサの意にそぐわない答えを、カナタが紡いだとしたら、きっと。
──頬に添えられたツカサの手は、すぐさまカナタの首に添えられるのだろう。
『す、好き、です……っ。ツカサさんのこと、ちゃんと……彼氏だって、思っています……っ。だから、酷いことしないで、ください……っ』
これが、最良の言葉。
たとえそれこそが、嘘の言葉なのだとしても。
こう答えることが、正しいことなのだと。
そう思い込むことしか、カナタにはできなかった。
ともだちにシェアしよう!