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それから、数分後。
軽快なノック音が、みっつ。
「カナちゃ~ん。入ってもいいかなぁ?」
そんな、ノック音以上に軽快な声が、ひとつ。
カナタはベッドから起き上がり、慌てて扉の方へ視線を向けた。
「ど、どうぞ……っ!」
するとすぐに、扉が開く。
当然、扉を開けたのはツカサだ。
「お待たせ~っ」
ニコニコと笑みを浮かべるツカサが、今はただただ、こんなにも恐ろしい。
いったい、どんな話をされるのか……。
カナタはそっと、身構えた。
何食わぬ顔でカナタが座るベッドへ近付いたツカサは、やはり笑みを浮かべている。
──そして。
「ねぇ見て、この雑誌! カナちゃんと一緒に見ようと思って、休憩中に買って来たんだっ!」
そう言い、ツカサは一冊の雑誌をカナタの目の前に用意した。
……思わず。
「えっ?」
カナタはポカンと、間抜けな表情を浮かべる。
ツカサが持っているのは、なんてことない普通の雑誌だ。
月に一度発行されている、ご当地の旬な情報が書かれた観光雑誌。
「……雑誌?」
カナタは雑誌をジッと見ながら、乾いた口で言葉を紡いだ。
「これが、大事な話……です、か?」
「うん、そうだよ」
「……ど、どの辺りが、でしょうか?」
雑誌を広げて談笑するのなら、マスターの前でだってできるのではないか。わざわざこうして、二人きりでする必要なんてないはず。
それは、カナタにとって当然の疑問だ。
けれどカナタの言葉は、ツカサにとって予想外だったのだろう。
「えっ、そんなに不思議がる? 大事な話だし、マスターの前じゃダメって言うか……カナちゃん、イヤでしょ?」
そんな言葉を添えて、心底不思議そうな瞳を向けているのだから。
ツカサは雑誌を数ページめくり、ある記事をカナタへ見せた。
そこで、ようやく。
──カナタは、ツカサが【マスターの前ではできない】と主張した意味を、理解した。
「ホラ! このお店とか、可愛くない? カナちゃん、マスターには可愛いものが好きってことを隠しているでしょう? だからさ、こういう話をするときにマスターが来たらイヤかなぁって!」
ツカサが開いたページに載っていたのは、三日前にオープンしたばかりらしいカフェの内装だ。
モダンな雰囲気の中にも、どことなくファンシーな要素が盛り込まれている内装。
並んで掲載されている写真には、そのカフェにとって自慢であろう看板メニューが写っていた。
ポカンとした間抜け面から、一変。
カナタは、雑誌をジッと眺めて……。
「──かっ、可愛い……っ」
思わず、素直な感想を口にした。
喜んでいるカナタを見て、ツカサが再度笑みを浮かべる。
「でしょでしょっ? このケーキだけじゃなくて……ホラ! こっちのラテアートとかも可愛くない?」
「はいっ、とっても可愛いと思います……っ!」
「他にはねぇ……ホラ、ココ! 壁に掛かってるポスターも可愛いな~って! このカフェの経営主の知り合い? が描いたらしいよっ」
「わっ、本当だ、可愛いっ! 動物がいっぱい描いてありますねっ!」
ツカサはカナタに雑誌を手渡し、見せたい箇所を指で指す。
カナタは誘導されるがまま、それらの写真と記事を眺めた。
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