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ツカサはカナタを真っ直ぐと見つめたまま、言葉を続ける。
「俺は自分の発言に責任は持っているし、あの言葉は脅しのためのフェイクなんかじゃない。覚悟や度胸もなく『死んでやる』って言うヒステリックなメンヘラとはワケが違う。カナちゃんが他の奴に盗られるくらいなら──カナちゃんが他の奴を選ぶなら、俺はカナちゃんを殺す。それですぐに、迷わず俺も死ぬよ」
あまりにも簡単に出てくる【死】という単語。
けれどそれは、とても重々しい意味合いの言葉として、カナタの胸に届く。
「怖いと思われても、これは本心だから。ウソじゃないから、ちゃんと伝える。誤魔化しもしない。俺はカナちゃんを殺すことができるし、カナちゃんが死ぬのなら俺は俺だって殺せる。そして一緒に死んだ後も、俺は地獄でカナちゃんを捕まえるよ」
恐ろしい、と。
そう思うよりも先に、カナタは思った。
「怯えさせてしまうからといって、キレイゴトを並べることができなくてごめん。怯えさせると分かっていながらで申し訳ないけれど、俺は地獄でも……カナちゃんが俺を拒んできたら、たとえ死後の世界だとしても、カナちゃんを殺す。この気持ちがウソじゃないってことを、どうか分かってほしい。……ごめんね」
──この人は。
──この人はなんて、誠実なのか……と。
取り繕わず、その場しのぎもしていない。
ツカサはカナタが【怯えている】ということを理解していながら、自分の気持ちを嘘偽りなく伝えている。
それは、カナタを脅すためではない。
ツカサの言葉は、自分の発言に責任を持っているからだ。
カナタに、真っ直ぐとぶつかっている。
勿論、真っ直ぐであればあるほど【殺す】という単語は研ぎ澄まされた。
脅しでも冗談でもないのなら、ツカサは悪意なくカナタを殺すのだろう。
そのことに、一切の罪悪感も申し訳なさも抱いていないのだから。
それでも、ツカサは謝罪の言葉を口にした。
それは、どうしてか。
──カナタに対しての本心が、カナタが望むものと違うと。
──そう、理解しているからだ。
黙り込んでしまったカナタに対して、ツカサはカナタが口にしていた別のことにも返答をする。
「それと、俺がアルバイトの子を何人も辞めさせたって話。あの話は、半分は確かに合っているけれど、半分は合っていない。俺は直接、なにかをしたわけじゃない。だけど、辞める原因は俺だった」
よく、分からない。
そんな目を、カナタはツカサへ向けた。
ツカサはカナタを見つめて、弱々しく笑う。
「辞めたアルバイトの子たちは、俺のことを好きになったんだってさ。だけど、俺はソイツ等のことなんて微塵も好きじゃない。だから、辞めたらしいよ。マスターが言っていたんだ。『報われないから一緒にいると辛い』って」
自嘲気味な笑みは、嘘を吐いているとは思えなかった。
ツカサはいつもとは違う色の笑みを浮かべながら、カナタを見つめる。
「これが俺の本心と、カナちゃんが知りたがっていたことの真実。信じてくれるかは、カナちゃん次第。……俺を怖がるのも、カナちゃん次第だよ。カナちゃんの、自由だよ」
ツカサの手が、カナタから離れた。
その腕はもう、カナタに触れようとはしていない。
「でも、そっかぁ……。カナちゃん、俺のこと怖かったんだ。うぅん、ヤッパリちょっとショック。俺、カナちゃんのことは特別扱いしていたつもりなんだけどなぁ……」
「それは……っ」
背後を振り返り、カナタは言葉を探す。
そして、ずっと抱えていた疑問を口にした。
「──どうしてツカサさんは、オレのことをそんなに可愛がってくれるんですか?」
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