25 / 289

2 : 7

 ツカサはカナタを真っ直ぐと見つめたまま、言葉を続ける。 「俺は自分の発言に責任は持っているし、あの言葉は脅しのためのフェイクなんかじゃない。覚悟や度胸もなく『死んでやる』って言うヒステリックなメンヘラとはワケが違う。カナちゃんが他の奴に盗られるくらいなら──カナちゃんが他の奴を選ぶなら、俺はカナちゃんを殺す。それですぐに、迷わず俺も死ぬよ」  あまりにも簡単に出てくる【死】という単語。  けれどそれは、とても重々しい意味合いの言葉として、カナタの胸に届く。 「怖いと思われても、これは本心だから。ウソじゃないから、ちゃんと伝える。誤魔化しもしない。俺はカナちゃんを殺すことができるし、カナちゃんが死ぬのなら俺は俺だって殺せる。そして一緒に死んだ後も、俺は地獄でカナちゃんを捕まえるよ」  恐ろしい、と。  そう思うよりも先に、カナタは思った。 「怯えさせてしまうからといって、キレイゴトを並べることができなくてごめん。怯えさせると分かっていながらで申し訳ないけれど、俺は地獄でも……カナちゃんが俺を拒んできたら、たとえ死後の世界だとしても、カナちゃんを殺す。この気持ちがウソじゃないってことを、どうか分かってほしい。……ごめんね」  ──この人は。  ──この人はなんて、誠実なのか……と。  取り繕わず、その場しのぎもしていない。  ツカサはカナタが【怯えている】ということを理解していながら、自分の気持ちを嘘偽りなく伝えている。  それは、カナタを脅すためではない。  ツカサの言葉は、自分の発言に責任を持っているからだ。  カナタに、真っ直ぐとぶつかっている。  勿論、真っ直ぐであればあるほど【殺す】という単語は研ぎ澄まされた。  脅しでも冗談でもないのなら、ツカサは悪意なくカナタを殺すのだろう。  そのことに、一切の罪悪感も申し訳なさも抱いていないのだから。  それでも、ツカサは謝罪の言葉を口にした。  それは、どうしてか。  ──カナタに対しての本心が、カナタが望むものと違うと。  ──そう、理解しているからだ。  黙り込んでしまったカナタに対して、ツカサはカナタが口にしていた別のことにも返答をする。 「それと、俺がアルバイトの子を何人も辞めさせたって話。あの話は、半分は確かに合っているけれど、半分は合っていない。俺は直接、なにかをしたわけじゃない。だけど、辞める原因は俺だった」  よく、分からない。  そんな目を、カナタはツカサへ向けた。  ツカサはカナタを見つめて、弱々しく笑う。 「辞めたアルバイトの子たちは、俺のことを好きになったんだってさ。だけど、俺はソイツ等のことなんて微塵も好きじゃない。だから、辞めたらしいよ。マスターが言っていたんだ。『報われないから一緒にいると辛い』って」  自嘲気味な笑みは、嘘を吐いているとは思えなかった。  ツカサはいつもとは違う色の笑みを浮かべながら、カナタを見つめる。 「これが俺の本心と、カナちゃんが知りたがっていたことの真実。信じてくれるかは、カナちゃん次第。……俺を怖がるのも、カナちゃん次第だよ。カナちゃんの、自由だよ」  ツカサの手が、カナタから離れた。  その腕はもう、カナタに触れようとはしていない。 「でも、そっかぁ……。カナちゃん、俺のこと怖かったんだ。うぅん、ヤッパリちょっとショック。俺、カナちゃんのことは特別扱いしていたつもりなんだけどなぁ……」 「それは……っ」  背後を振り返り、カナタは言葉を探す。  そして、ずっと抱えていた疑問を口にした。 「──どうしてツカサさんは、オレのことをそんなに可愛がってくれるんですか?」

ともだちにシェアしよう!