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ベッドから立ち上がったカナタは、ツカサの服をそっとつまむ。
立ち止まったツカサが、驚いた様子で振り返るよりも先に……。
「──行っちゃ、嫌……です」
カナタは、ツカサの背中に抱き着いた。
布越しに、体温を感じる。
カナタの鼻腔をくすぐる、甘くて優しい匂い。
それは何度も嗅いだことがある、ツカサの匂いだ。
カナタに抱き着かれたツカサは、ただただ不思議そうにカナタへ訊ねた。
「俺のこと、怖いんじゃないの?」
「平気で『殺す』って言うところは、怖いです……っ」
「でも、俺の本心だからどうしようもしてあげられないよ? 俺はこの思想を変えるつもりはない。だから俺は、カナちゃんにとって悪い男だよ?」
ツカサから発せられた、どこまでも真実に近い色をした言葉。
その言葉に、カナタは胸を詰まらせる。
「それ、は……っ」
カナタは、ツカサの背に抱き着いたまま……。
「──それは、違います」
ハッキリと、そう言い切った。
ツカサの思考も思想も、カナタには理解できない。
【可愛い】と言ってくれる理由も、執着される理由も理解できなかった。
それでも、カナタはツカサと離れようとは思えなかったのだ。
カナタにはツカサを、理解することができない。
──それはつまり、ツカサにもカナタを理解できないということ。
そうなると、少しずつ話が変わってくる。
カナタが抱えている問題は、カナタ一人のものではないはずなのだ。
「ツカサさんの考え方は、分かりません。オレはツカサさんと同じには、なれません。だけどツカサさんは、オレにとって【悪い人】ではないです。理解できなくても、分からないのだとしても……オレはそれでも、ツカサさんに避けられたりするのは……嫌、です」
身の危険を感じなくなるのだから、ツカサと離れることはベストかもしれない。
距離を置いて、ツカサを冷静にさせることも、ある意味で正しいと思われる選択のひとつだろう。
それでもカナタは、ツカサから離れようとは思えなかった。
「カナちゃん……?」
カナタが思っていた通り、やはりツカサにもカナタの考えが分からないらしい。
珍しく、ツカサは戸惑ったような声を出していた。
それでもカナタは、ツカサの背中に抱き着いたままだ。
「来月、オレと出掛けてくれないのは……嫌、です。オレだって、ツカサさんに案内してもらうの……楽しみに、していましたから……っ」
ツカサのことが、恋愛として好きなのか。
そこまでの確信を、カナタは持てていない。
けれど、ツカサ以外の誰かを選ぶ自分は……想像できなかった。
──初めて自分を認めてくれて、舞い上がっているだけなのか。
──自分を大事にしてくれている人を手放すのが、純粋に惜しいだけなのかもしれない。
カナタは、人を好きになったことがなかった。
ゆえに、正しい恋愛感情をまだ知らない。
それでもカナタは、ツカサと離れたくはなかった。
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