27 / 289

2 : 9

 ベッドから立ち上がったカナタは、ツカサの服をそっとつまむ。  立ち止まったツカサが、驚いた様子で振り返るよりも先に……。 「──行っちゃ、嫌……です」  カナタは、ツカサの背中に抱き着いた。  布越しに、体温を感じる。  カナタの鼻腔をくすぐる、甘くて優しい匂い。  それは何度も嗅いだことがある、ツカサの匂いだ。  カナタに抱き着かれたツカサは、ただただ不思議そうにカナタへ訊ねた。 「俺のこと、怖いんじゃないの?」 「平気で『殺す』って言うところは、怖いです……っ」 「でも、俺の本心だからどうしようもしてあげられないよ? 俺はこの思想を変えるつもりはない。だから俺は、カナちゃんにとって悪い男だよ?」  ツカサから発せられた、どこまでも真実に近い色をした言葉。  その言葉に、カナタは胸を詰まらせる。 「それ、は……っ」  カナタは、ツカサの背に抱き着いたまま……。 「──それは、違います」  ハッキリと、そう言い切った。  ツカサの思考も思想も、カナタには理解できない。  【可愛い】と言ってくれる理由も、執着される理由も理解できなかった。  それでも、カナタはツカサと離れようとは思えなかったのだ。  カナタにはツカサを、理解することができない。  ──それはつまり、ツカサにもカナタを理解できないということ。  そうなると、少しずつ話が変わってくる。  カナタが抱えている問題は、カナタ一人のものではないはずなのだ。 「ツカサさんの考え方は、分かりません。オレはツカサさんと同じには、なれません。だけどツカサさんは、オレにとって【悪い人】ではないです。理解できなくても、分からないのだとしても……オレはそれでも、ツカサさんに避けられたりするのは……嫌、です」  身の危険を感じなくなるのだから、ツカサと離れることはベストかもしれない。  距離を置いて、ツカサを冷静にさせることも、ある意味で正しいと思われる選択のひとつだろう。  それでもカナタは、ツカサから離れようとは思えなかった。 「カナちゃん……?」  カナタが思っていた通り、やはりツカサにもカナタの考えが分からないらしい。  珍しく、ツカサは戸惑ったような声を出していた。  それでもカナタは、ツカサの背中に抱き着いたままだ。 「来月、オレと出掛けてくれないのは……嫌、です。オレだって、ツカサさんに案内してもらうの……楽しみに、していましたから……っ」  ツカサのことが、恋愛として好きなのか。  そこまでの確信を、カナタは持てていない。  けれど、ツカサ以外の誰かを選ぶ自分は……想像できなかった。  ──初めて自分を認めてくれて、舞い上がっているだけなのか。  ──自分を大事にしてくれている人を手放すのが、純粋に惜しいだけなのかもしれない。  カナタは、人を好きになったことがなかった。  ゆえに、正しい恋愛感情をまだ知らない。  それでもカナタは、ツカサと離れたくはなかった。

ともだちにシェアしよう!