28 / 289
2 : 10
自分のしていることは、我儘なのかもしれない。
そんな考えが、カナタの頭には確かにあった。
それでも、カナタは口を開く。
「オレがツカサさん以外の人を選ばないなら、怖いことをしないんですよね……? 今までみたいに、優しいツカサさんでいてくれるんですよね? なら、オレ……今までのツカサさんは、好き……だから……っ。だから、オレと今まで通り、一緒にいてほしいです……っ」
もしかしたら、自分は酷いことを言っているのでは。……そんな考えが、頭の片隅にはあった。
そんな罪悪感を抱いていたとしても、カナタには上手な言い回しが分からない。
ツカサに対する適切な言葉も、分からなかった。
──しかしそれは、ツカサだって同じ。
──ならば、どんなに惨めで悪辣な言葉でも……本心であるのだから、伝えよう。
不器用なカナタなりの、選択。
それゆえに溢れた、本心という言葉だった。
途端に、カナタは弾かれたようにツカサから離れる。
「ご、ごめんなさい……っ! いきなり、抱き着いて……っ」
ツカサを傷つけたのはカナタ自身のくせに、突然抱き着くなんてどうかしていた。
そう思い、カナタは恥ずかしさと惨めさによって距離をとった。
その刹那。
「──なんで離れるの?」
ツカサが。
カナタの腕を、力任せに引いたのだ。
驚きによって「うわっ」と短い悲鳴を上げた後、カナタは引かれるがまま、ツカサの体にもたれかかる。
そのまま、ツカサの両腕がカナタの体に回された。
「嬉しい……っ! カナちゃん、俺のこと好きなんだ……っ? 俺と、デートしたいって思ってくれてるんだっ!」
「ツ、ツカサさん……っ。ちょっと、苦しいです……っ」
「素直に気持ちをぶつけてくれるカナちゃんも、俺に怯えるカナちゃんも、俺のことが好きなカナちゃんも全部可愛いっ! カナちゃん、世界で一番可愛いよっ!」
「そ、そういう話じゃ──わ、ぷ……っ」
力強く抱き寄せられたカナタは、ツカサの体に溺れるように引き寄せられる。
「今すぐカナちゃんのことメチャクチャに抱きたいけど、明日の仕事に支障が出ちゃったらイヤだし、どうしよう……っ。ね、カナちゃん。明日の仕事、俺いっぱい頑張るよ! だから今、俺とセックスしてくれる?」
「セ……ッ! そ、そんな恥ずかしいこと、言わないでください……っ!」
確かに、カナタはツカサに『好き』と言った。
しかし、その好きは『恋愛感情』という意味での言葉ではない。
あくまでも人として、ライクという意味で言ったのだ。
……しかし、そんな言葉は今のツカサには届かない。
「お願いだよ、カナちゃん。『いいよ』って言って? じゃないと俺、今すぐこの場でカナちゃんの同意もなしに犯すよ? ヤダって言っても、カナちゃんに何回もナカに出しちゃうよ? 今夜は寝かせないよ? それでもいいの? イヤだよね? なら、今すぐ『いいよ』って言って? いいよね。ね、カナちゃん? ねっ?」
圧しかない言葉の羅列に、どこかツカサに流されがちなカナタはたじたじになる。
「それと、もうひとつ。デートが終わった後も、俺とセックスするって約束して? ねぇ、いいよね? 俺、怖いことはしないからさ。カナちゃんが『怖い』って思うことをしないように頑張るからさ。ねっ、カナちゃん?」
「わ、わわっ、分かりました……っ! 分かりましたから、パンツの中に手を入れないでください……っ!」
「ヤッタ!」
カナタの言葉に、ツカサは無邪気な笑みを浮かべた。
カナタの体をまさぐり始めたツカサの手が、大人しく服の中からいなくなる。
そのままもう一度、ツカサは強い抱擁をカナタへと贈った。
「そうだ! ね、カナちゃん? 来月、女の子の服を着てデートしない? マスターからは俺が隠してあげるからさ! ねっ、いいよねっ?」
「それは、さすがに恥ずか──」
「さっきのカフェね? すっごく可愛いパンケーキとパフェがあるんだけど、カップルのお客様限定のメニューなんだってさ。だから、女の子の服を着て行った方がカップルっぽく見えない? モチロン俺は、男の子の服を着たカナちゃんのことも『俺の恋人です』って言い切れるけど!」
意気揚々とはしゃぐツカサに、絆されている感覚はある。
それでも、カナタは……。
「可愛いパンケーキと、パフェ……っ?」
──小さく、頷くことしか許されなかったのだ。
ともだちにシェアしよう!