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 自分のしていることは、我儘なのかもしれない。  そんな考えが、カナタの頭には確かにあった。  それでも、カナタは口を開く。 「オレがツカサさん以外の人を選ばないなら、怖いことをしないんですよね……? 今までみたいに、優しいツカサさんでいてくれるんですよね? なら、オレ……今までのツカサさんは、好き……だから……っ。だから、オレと今まで通り、一緒にいてほしいです……っ」  もしかしたら、自分は酷いことを言っているのでは。……そんな考えが、頭の片隅にはあった。  そんな罪悪感を抱いていたとしても、カナタには上手な言い回しが分からない。  ツカサに対する適切な言葉も、分からなかった。  ──しかしそれは、ツカサだって同じ。  ──ならば、どんなに惨めで悪辣な言葉でも……本心であるのだから、伝えよう。  不器用なカナタなりの、選択。  それゆえに溢れた、本心という言葉だった。  途端に、カナタは弾かれたようにツカサから離れる。 「ご、ごめんなさい……っ! いきなり、抱き着いて……っ」  ツカサを傷つけたのはカナタ自身のくせに、突然抱き着くなんてどうかしていた。  そう思い、カナタは恥ずかしさと惨めさによって距離をとった。  その刹那。 「──なんで離れるの?」  ツカサが。  カナタの腕を、力任せに引いたのだ。  驚きによって「うわっ」と短い悲鳴を上げた後、カナタは引かれるがまま、ツカサの体にもたれかかる。  そのまま、ツカサの両腕がカナタの体に回された。 「嬉しい……っ! カナちゃん、俺のこと好きなんだ……っ? 俺と、デートしたいって思ってくれてるんだっ!」 「ツ、ツカサさん……っ。ちょっと、苦しいです……っ」 「素直に気持ちをぶつけてくれるカナちゃんも、俺に怯えるカナちゃんも、俺のことが好きなカナちゃんも全部可愛いっ! カナちゃん、世界で一番可愛いよっ!」 「そ、そういう話じゃ──わ、ぷ……っ」  力強く抱き寄せられたカナタは、ツカサの体に溺れるように引き寄せられる。 「今すぐカナちゃんのことメチャクチャに抱きたいけど、明日の仕事に支障が出ちゃったらイヤだし、どうしよう……っ。ね、カナちゃん。明日の仕事、俺いっぱい頑張るよ! だから今、俺とセックスしてくれる?」 「セ……ッ! そ、そんな恥ずかしいこと、言わないでください……っ!」  確かに、カナタはツカサに『好き』と言った。  しかし、その好きは『恋愛感情』という意味での言葉ではない。  あくまでも人として、ライクという意味で言ったのだ。  ……しかし、そんな言葉は今のツカサには届かない。 「お願いだよ、カナちゃん。『いいよ』って言って? じゃないと俺、今すぐこの場でカナちゃんの同意もなしに犯すよ? ヤダって言っても、カナちゃんに何回もナカに出しちゃうよ? 今夜は寝かせないよ? それでもいいの? イヤだよね? なら、今すぐ『いいよ』って言って? いいよね。ね、カナちゃん? ねっ?」  圧しかない言葉の羅列に、どこかツカサに流されがちなカナタはたじたじになる。 「それと、もうひとつ。デートが終わった後も、俺とセックスするって約束して? ねぇ、いいよね? 俺、怖いことはしないからさ。カナちゃんが『怖い』って思うことをしないように頑張るからさ。ねっ、カナちゃん?」 「わ、わわっ、分かりました……っ! 分かりましたから、パンツの中に手を入れないでください……っ!」 「ヤッタ!」  カナタの言葉に、ツカサは無邪気な笑みを浮かべた。  カナタの体をまさぐり始めたツカサの手が、大人しく服の中からいなくなる。  そのままもう一度、ツカサは強い抱擁をカナタへと贈った。 「そうだ! ね、カナちゃん? 来月、女の子の服を着てデートしない? マスターからは俺が隠してあげるからさ! ねっ、いいよねっ?」 「それは、さすがに恥ずか──」 「さっきのカフェね? すっごく可愛いパンケーキとパフェがあるんだけど、カップルのお客様限定のメニューなんだってさ。だから、女の子の服を着て行った方がカップルっぽく見えない? モチロン俺は、男の子の服を着たカナちゃんのことも『俺の恋人です』って言い切れるけど!」  意気揚々とはしゃぐツカサに、絆されている感覚はある。  それでも、カナタは……。 「可愛いパンケーキと、パフェ……っ?」  ──小さく、頷くことしか許されなかったのだ。

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