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 ──どうしていつも、ツカサを拒み切れないのか。  カナタは頭の片隅でぼんやりと、そんなことを考える。 「ねぇ、カナちゃん。……今、なにを考えているの?」  カナタに覆いかぶさったツカサは、垂れてきた自分の髪を後ろへ撫でつけながら、そう訊ねた。  カナタは赤くなった顔を隠すこともできずに、ツカサを見上げる。 「まさか、俺以外の人のことを考えているのかな?」  ツカサの瞳が、真っ直ぐとカナタを映す。  慌てて、カナタは首を横に振る。  ツカサの瞳が、とても暗いものに見えたからだ。 「そうなんだ。……なら、良かったぁ」 「あ、っ!」  ツカサはカナタの首筋に鼻先を当てて、そのまま舌を這わせる。  生温かい感触に、カナタは短い悲鳴を上げた。 「カナちゃん、可愛い。……ねぇ。ココに痕、つけてもいい?」 「それは、困ります……っ」 「どうして? カナちゃんは俺のカナちゃんなのに」  拗ねたような口調に、カナタは一瞬だけ絆されそうになる。  しかし、ツカサが唇を寄せているのは首筋。しかも、襟で隠れるか隠れないか微妙なラインだ。  カナタの首にキスマークなんて付いていたら、少なくともマスターには【相手がツカサ】ということがすぐにバレてしまう。  なぜなら、カナタはマスターとツカサ以外、密接に交流している相手がいないのだから。  そのことを分かっていないのか、はたまた分かっているうえでの発言なのか。 「お願い、カナちゃん。キスマーク、付けさせて?」  ツカサは、一歩たりとも引こうとしない。  カナタはそれでも、首を横に振ろうとする。  そうすると……。 「──ぁあっ!」  ツカサが強引に、カナタの後孔を逸物で穿つ。  今、カナタはツカサに抱かれている。  主導権を完全に握られ、逃げることは到底不可能な状況だ。 「ねぇ、カナちゃん。……お願い」  そう言い、ツカサはカナタの首筋に歯を立てる。 「できれば、強引に噛みたくはないんだよ」  つまりそれは、拒否をするのならば噛むという意味。  やはりどうしたって、カナタはツカサを拒めないのだ。 「もう、少し……下に、してください……っ」  せめてもの願いを口にすると、ツカサの唇がゆっくりと動く。 「ココ?」 「ん、っ。……も、少し、下……っ」 「えぇ~っ? それじゃあ見えないよ?」 「見えるのが──やっ、噛まないで、くださ……んっ!」  ツカサはカナタの首筋に、そっと歯を立てた。 「見えるところがいい。隠せないところがいい。……ねぇ、いいでしょ?」  舌が、まるで狙いを定めるようにカナタの首筋を這う。  こうなっては、どうしたってツカサを言い負かすことはできない。  カナタは覚悟を決めて、ツカサの背中に手を伸ばした。 「……一ヶ所だけ、ですよ……っ?」 「ヤッタ、ありがとっ」 「ん、っ!」  すぐに、小さな痛みが首筋に奔る。  カナタは眉を寄せて、突然与えられた痛みに耐えた。  ツカサは唇を離し、そのままカナタの頭を撫でる。 「優しいカナちゃん、凄く可愛い。可愛くて、可愛くて……あぁ、どうしよう。また怖がられるのは嫌だなぁ……」  恍惚とした表情でカナタを見下ろしながら、ツカサは微笑む。 「だけど、ひとつもふたつも同じだよね。カナちゃんは優しいから、きっと俺を嫌いにならないよ。だって、俺のカナちゃんは世界で一番いい子だから」  それは、どういう意味なのか。  カナタが問いかけようとした、その時……。 「やっ、ツカサさん……っ! だめっ、一ヶ所だけって──や、っ!」  ツカサはもう一度、カナタの首筋に痛みを与えた。

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