36 / 289

3 : 4

 カナタは子供の頃から、内気な男だった。  【可愛いものが好き】と気付いてしまったのは、小学校高学年の頃。  丁度、周りが男女について意識をし始めた、思春期。  男はカッコいいものが好きで、可愛いものが好きなのは女だけ。  そんな周りの空気が、無遠慮にカナタを責めているようで。  カナタは学生の頃から、友達を上手に作ることができなかったのだ。  高校を卒業してすぐ、カナタはマスターがいる喫茶店で働くことが決まった。  可愛いものが好きな自分を打ち明けることもできずに、カナタはのらりくらりと今を過ごしていただけ。  当然両親も、カナタが人付き合いを上手にできない本当の理由を知らない。  カナタは身内にすら、自分の趣味を伝えていないのだから。 「ホムラさんは年上の人でしょう? お友達と呼ぶには少し抵抗があるかもしれないけれど、仲が良さそうで安心したわ」  ギュッと、カナタは自らの手を強く握った。 「……ツカサ、さんは……っ」  友達では、ない。  カナタにとってツカサは、友達という枠では語れない相手だ。  ……だが。 「……オレの、先輩だから。マスターさんと同じくらい、優しくていい人、だよ」  可愛いものが好きということすら、カナタは両親に話せていない。  それなのに、男と付き合っているなんて打ち明けられるはずがなかった。  ましてや、今の関係性に至る過程や経緯。  果ては、肉体関係があるのに心だけがついてきていないことも。  カナタはなにひとつ、母親には打ち明けられなかった。  * * *  料理を食べ終えたカナタの母親は、すぐに席を立つ。  そのまま身支度を終えて、会計をするためにレジへと向かった。 「今日はいきなり来てごめんなさい。職場に母親が来るなんて、気恥ずかしいわよね」 「そんなことないよ。心配してくれて、嬉しかった」  レジを打ちながら、カナタは母親から代金を受け取る。 「はい、おつり」 「ありがとう。……また来るわね」 「うん。今度は、オレも家に顔を出すよ」 「あらあら、随分と逞しい言い方しちゃって」  母親の笑みを見て、カナタも微笑む。  受け取った釣り銭を財布にしまいながら、母親は新たな話題を口にした。 「そうだ。カナタの部屋に服が少し残っていたのよ」  母親の言葉に、カナタの指はピクリと跳ねる。  そのことに気付いていないのか、母親は言葉を重ねた。 「今日持ってきたのだけれど、どうしましょう? 今、あなたに渡してしまってもいいのかしら?」  母親はそう言い、ずっと持っていた紙袋をカナタへ見せる。  カナタは慌てて顔を上げて、言葉を探した。 「え、っと。……う、うん。裏に、置いておくね」 「置いておける場所があるのね、良かったわ。……じゃあはい、これ」 「うん。……あり、がとう」  用事は終わったと確認し、母親はカナタに笑みを向ける。  その笑みに、カナタは曖昧な形の笑みを返した。  カランと退店の音が店内に響くも、カナタの表情は優れない。  すると、不意に。 「カナちゃん、どうかした?」  隣から、ツカサが顔を覗かせた。  カナタは顔を上げて、笑みを浮かべる。 「お母さんから、荷物を預かったんです」 「わざわざ持ってきてくれたんだ? カナちゃんに似て、お義母様は優しいね。……なにが入っているか、訊いてもいい?」 「はい、大丈夫です。中には、オレが家に置いていった服が入っています」  カナタの返答に、ツカサは声をひそめる。 「もしかして、可愛い服?」  ツカサからの心配を、カナタは苦笑で受け止めた。 「逆です。……可愛くない服ですよ」  紙袋を持ち直したカナタは、そのままツカサに頭を下げる。 「すみません。これ、裏に置いてきます」  そう言ったカナタは、やはりどうしたって。  ……上手に、笑えなかった。

ともだちにシェアしよう!