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ツカサはカナタの顔をジッと覗き込み、口角を上げる。
「お義母様から紙袋を受け取ってから、元気がなかったでしょう? だから、なにかあったのかなぁって思ってね」
──どうして。
カナタはそんな短い言葉も、口にできなかった。
──どうしていつも、ツカサはカナタを見つけてくれるのか。
──どうしていつも、カナタのそばにツカサはいてくれるのかと。
簡単すぎるそんな問いも、カナタは口にできない。
カナタは呆気に取られた後、すぐにツカサから目を逸らす。
「そんなこと、全然……っ」
必死に、カナタは隠そうとする。
それでもツカサは、やはり見つけてしまうのだ。
「俺は、カナちゃんの好きなものを全部知っているよ。だから、カナちゃんにとって俺は一番、なんでも話しやすい相手だと思わない?」
カナタが落ち込んでいる、些末すぎる理由。
それに気付いていながらも、ツカサは決してカナタを馬鹿にしない。
むしろ逆で、優しく受け止めようとしているくらいだ。
「今日最後に見たカナちゃんの顔が悲しい色をしているなんて、俺はヤダな」
頬に触れて、ツカサは目線が合うようにカナタを誘導する。
「それとも、一人で考えたい?」
するりと、ツカサの手がカナタの顎を撫でた。
そこで不意に、カナタは思い出す。
──ツカサが来た時に、言えなかった言葉。
カナタはツカサの手によってではなく、自分の意思で顔を上げた。
「あの、ツカサさん。……変なことを言っても、いいですか?」
そのままジッと、カナタはツカサの顔を見つめる。
そして、カナタは勇気を振り絞った。
「オレも、ツカサさんの顔が見られて……その、嬉しいです。会いたかった、です」
頬に、熱が溜まる。
こんなことを口にしたのは、初めてだ。
思えば、ツカサと出会ってからは初めてのことばかりだった。
誰かに溺れるほど『可愛い』と言われたことも、カナタの身には余り過ぎるほどの刺激的な経験も初めて。
いつだって、カナタは変わる勇気を持っていなかった。
ただ、心の中に作った扉の奥で【変化】を待っていただけ。
自分からは動こうとせず、ただただ【理解者】を待っていただけだった。
そんな人間に、普通ならば救いの手なんか差し伸べられない。
【変化】が、音を立ててやってくるはずがないのだ。
しかし、その【期待】という名の扉を開けてくれたのは、紛れもなくツカサだった。
ツカサはいつだって、カナタの求めるものをくれようとしていたのだ。
それをただ、カナタは甘んじて受け入れているだけ。
──そんな自分が、カナタは酷く恥ずかしく思えただけだ。
「親に、可愛いものが好きって言えなくて。親はきっと、そんなオレを望んでいないだろうなって。そう思うと、少しだけ……気が、滅入ってしまったんです」
悩みを打ち明けることに、カナタは人一倍勇気が必要なタイプだった。
他の誰が見ても、きっとカナタの告白に込められた勇気には気付かない。
──ただ一人。
「そっか。それは、確かにちょっと難しいことだよね」
──ツカサを除いて。
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