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カナタは自身の手を強く握り、ツカサに告白をする。
「オレは、子供の頃から可愛いものが好きです。色も、黒とか金とか……男の人が好きそうなカッコいい色より、ピンクとか水色とか、可愛い色が好き。ランドセルも今思うと、黒より赤が欲しかったです」
必死に上げていた顔を、カナタは俯かせてしまう。
「だけど、それは変なことです。男はカッコいいものが好きで、可愛いものが好きなのは女の子だけだから。だけど、それでもオレは……っ」
会話の終着点が、うまく見つけられない。
しどろもどろになってしまう会話を、カナタはなんとか帰結させようとする。
この問題に、明確な答えはない。
カナタ自身、ツカサに打ち明けたからといってなにをしてほしいわけでもなかった。
それでもこうして、口にしている理由。それはきっと、なによりも単純なもの。
「男のオレが、可愛いものを好きなのは……おかしい、ですか……っ?」
カナタは、自分を【狡い男】だと思う。
なぜなら、ツカサからの答えを知っているから。
……期待、しているのだ。
カナタは黙り込み、俯いたまま、ツカサからの【否定】を求める。
すると、ツカサの手がカナタの頭に乗せられた。
「カナちゃんは、俺に『そんなことないよ』って言われたいんだよね」
ビクリと、カナタは肩を震わせる。
それと同時に、カナタは自分自身の浅ましさに羞恥心を抱いた。
確かに、カナタはツカサからの【否定】を求めている。
だが、それをツカサ本人から明確に言葉で突きつけられると……カナタは恥ずかしさから、どうにかなりそうだった。
「確かに、男が可愛いものを好きだと、揶揄われることがあるだろうね」
ツカサの言葉に、カナタは胸を痛める。
まさか、ツカサが肯定するとは思わなかったからだ。
けれど、頭に乗せられたツカサの手は優しいものだった。
ツカサは普段と変わらない穏やかな口調のまま、静かに訊ねる。
「──だけどそれって、そんなに重要なこと?」
ツカサの言葉に、カナタは顔を上げた。
「カナちゃんが好きなものを否定する誰かがいたとして、それってそんなに悩むことなのかな?」
「それは……っ! ……誰かに否定されるのは、怖いです」
「ふぅん?」
ツカサはカナタの頭を撫でながら、つまらなさそうに呟く。
「──世界中がカナちゃんを否定したって、俺はカナちゃんの味方なのになぁ」
ほんの少し、手つきが雑なものに変わる。
「あ~あ、面白くない。面白くないよ、良くないよ、イヤだよそんなの。カナちゃんは俺だけじゃ不満なんだ。なにそれ、すっごくつまんない。つまり、カナちゃんは不特定多数から一定の支持が欲しいってことなんでしょう? それじゃあつまり、今のは堂々とした浮気宣言じゃん? 良くないなぁ、イヤだなぁ、むかつくなぁ」
拗ねたように言葉を連ねながら、ツカサはカナタから顔を背けた。
「カナちゃんに理解者なんて要らないよ。マスターにもご両親にも理解されなくていい。カナちゃんのことを理解する人は、俺以外に必要ないよ」
「なんで、そんなこと──」
「『なんで』? だって、カナちゃんに理解者ができたら、カナちゃんはソイツのことを好きになるかもしれないでしょう?」
逸らされていた視線が、カナタへ向けられる。
「それは困るよ。カナちゃんが俺以外の人を好きになったら、俺はカナちゃんに【怖いこと】をしちゃう。そうしたら、俺はカナちゃんに嫌われる。それはダメなんだよ、絶対にダメ。俺は、カナちゃんに嫌われたくない」
真っ直ぐと、ツカサの視線が注がれた。
「だから、ねっ? カナちゃんには俺以外の理解者なんて必要ないでしょう?」
その目は、どこまでも優しくて。
どこまでも、冷たかった。
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