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ツカサの言葉は、やはりカナタには理解できないものだった。
それでも分かるのは、やはりツカサはカナタの趣味嗜好を否定しないということ。
そしてなぜか、カナタが他の誰かから理解されることを嫌がっているということだ。
「マジな返事をすると、世界中の人から満場一致で肯定される話なんてないよ。仮に『人はいつか必ず死にます』って言っても、中には『いいえ、死にません』って反論する人もいると思う。あえて極論を言うとすれば、たまたまその【否定的な人】がカナちゃんの近くに多い可能性があるかもしれないってだけ」
先ほどまでの内容とは打って変わり、今度は分かりやすい話をツカサが口にする。
「価値観や趣味嗜好に対する百パーセントの肯定は、絶対にない。なら、そんなことに怯えていたって仕方ないよ。つまるところ、人と違うことがダメなんじゃない。人と違う自分に胸を張れない自分が、一番ダメだよ」
「……っ」
「なんて、ちょっとマジな回答すぎて自分でも引くけどさ。正直なところ、俺はそう思うなぁ」
照れたように笑いながら、ツカサはカナタを見つめた。
「だけど、俺はカナちゃんのことを肯定するよ。可愛いものが好きなカナちゃんは、凄く可愛い。俺にとっては正直些末な悩みだけど、そんなことで真剣に悩んじゃうカナちゃんも、ヤッパリ可愛い。自分が間違っているんじゃないかって不安になるカナちゃんも、メチャメチャ可愛いよ」
ツカサの、少し冷えた指。
その先端が、カナタの頬をふにっと優しく押す。
「これじゃあ、ダメ? こんな言葉じゃ、カナちゃんは笑ってくれない?」
そう言うや否や、ツカサは悲しそうな表情を浮かべた。
「俺、こういう相談って今までサラッと流してきたから、ヤッパリ受け答えが上手じゃないよね。ごめんね、カナちゃん。でも、他の人に相談するのは絶対ダメだからね? それは許さないから」
ツカサらしい優しさと、ツカサらしい我儘。
それらを受けて、思わずカナタは笑みをこぼした。
「ツカサさんらしい、ですね」
小さく笑うカナタを見て、ツカサはどこか安堵したような表情を浮かべる。
カナタは肩を揺らしながら、ツカサを見上げた。
「ありがとうございます、ツカサさん。今日、寝る前に話ができて良かったです。……だから、そのっ、つまり……っ」
カナタは頬を赤らめて、ツカサから視線を外す。
「会いに来てくれて、嬉しかった。……です」
こんなカナタらしくない言葉に、ツカサは少しでも笑ってくれるだろうか。
ツカサと同様、カナタもツカサの笑顔が見たかった。
ほんの少しだけ期待を込めて、カナタは顔を上げる。
しかし意外にも、ツカサからの反応は想定と違うものだった。
「でも、カナちゃんにとって俺はただの【先輩】なんでしょう?」
そう言うツカサは、不服そうな表情をしている。
なんの話か分からず、カナタは疑問符を浮かべた。
すると、ツカサはわざとらしく唇を尖らせ、そのままカナタからぷいと顔を背ける。
「お義母様にそう言ってたじゃん。俺のことを『先輩だ』って」
そこでようやく、カナタは日中の出来事を思い出す。
『……ツカサ、さんは……っ』
『……オレの、先輩だから。マスターさんと同じくらい、優しくていい人、だよ』
確かにカナタは、母親にそう言っていた。
どうやらあの会話を、ツカサは聞いていたらしい。
だからこそ、ツカサは露骨に拗ねているようだった。
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