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未だにカナタは、ツカサへの気持ちに正しい名前を付けられていなかった。
『好き』と口にすることはできるが、それは【優しい年上のお兄さん】としてなのか。
それとも、本当に【一人の人間】として。
あまつさえ【恋愛感情】としてなのかも、分かっていない。
それでもいつからか、カナタはツカサに恐怖心を抱く回数が減っていた。
……しかも。
「あっ、は……っ!」
ツカサの手が、カナタの逸物を握る。
もう片方の手は、カナタの乳首をつまんでいた。
「カナちゃん、腰動いてる。……もしかして、挿れてほしいの?」
「そ、れは……っ」
「俺も本当はカナちゃんに挿れたいけど、マジでマスターがいつ戻ってくるか分からないからさ。今は我慢、ねっ?」
「ひゃ、あぅ……っ」
言葉尻に合わせて、ツカサの指が乳首をつねる。
カナタは体をビクリと震わせて、与えられる快感に翻弄された。
「カナちゃんが俺に犯されたときに見せる、とろけきった顔。……それは、誰にも見せたくないんだ。だから、ごめんね」
「ツカ、サっ、さん……っ」
「そうだよね、早くイきたいよね。焦らさないから、大丈夫だよ。安心して」
ツカサが手を動かすたびに、くちゅくちゅと淫らな音がダイニングに響く。
カナタは無意識のうちに、ツカサの手へ逸物を押し付けた。
「イ、く……っ。も、でちゃ……っ」
「いいよ、出しちゃおうか」
カナタは近付く絶頂に対し、子供のように首を左右に振り乱す。
「はぅ、んっ! ど、しよ……っ。声、出ちゃ……あ、っ!」
マスターは喫茶店にいるかもしれないが、タイミング悪くこっちの平屋に戻ってくるかもしれない。
そのことを危惧したカナタは、縋るような目をツカサへ向けた。
カナタからの視線に気付いたツカサは、小さく笑みを浮かべる。
「今日のカナちゃん、いつも以上に可愛い」
「あっ、んぅ……っ!」
「いいよ、塞いであげる。カナちゃんの喘ぎ声は、俺だけのものだからね」
どこか優越感にでも浸っているかのような、満足げな瞳。
ツカサは微笑みを浮かべたまま、快楽の虜となったカナタにキスをする。
「ん、ふ……ん、ぅ」
キスをされると同時に、ツカサの手が動きを速めた。
射精を促すようなその手つきに、カナタは呆気なく絶頂へと向かう。
「んぅ、ふっ、んんぅっ!」
熱い劣情が、ツカサの手とカナタの下穿きを汚していく。
数回に分けて吐き出された精液は、瞬く間にツカサの手を犯した。
「凄い量だね。そんなに気持ち良かった?」
唇を離した後、ツカサは放心しかけているカナタへ訊ねる。
カナタは肩で息をしながら、素直に小さく頷いた。
……ぼんやりとした思考の中、カナタは考える。
ツカサのことをどう思っているのかは、まだ分からない。
それでも、ツカサとの性交は以前までのように、不快感や恐怖心などのマイナス感情を伴っていないこと。
そして、ツカサの体温が酷く心地いいことだけではない。
──確実に、ツカサに対しての気持ちが変わっていることも。
それだけは、感情の袋小路を彷徨うカナタ自身にも分かっていた。
「射精した後のトロ顔カナちゃん、凄く可愛い。崩さず壊さず、頭からまるっと食べちゃいたいくらいだよ」
そして唯一、ツカサに『可愛い』と言われると嬉しくなることは、変わっていない。
それらも全て、カナタは頭の片隅でハッキリと分かっていた。
ただそれが、浅ましい依存心なのか。
それとも、恋愛感情と言い切っていいのかだけが。
ツカサからの眼差しを受けてもなお、カナタには分からなかった。
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